
海の中を漂う「緑藻」の研究者である得津隆太郎教授は、幼いころから「獣医になる」という夢を抱いていました。しかし、中学時代に獣医という仕事が命や病気と向き合う職業であることを改めて真剣に理解し、進路を変えることになります。現在は、2025年4月に獣医学部にできたグリーン環境創成科学科で、広大な生態系を支える「植物プランクトン」を研究しています。インタビュー前編は、得津教授の研究テーマの原点をたどります。(1回目/全3回)
──得津先生が今の研究に行き着くまでの道のりについて伺いたいのですが、子どもの頃はどんなことに興味を持たれていたのでしょうか?
得津教授 小学生の頃は獣医さんになりたかったんです。動物が好きで、特にイルカなどの海洋動物がお気に入りでした。中学生になって、自宅で柴犬を飼い始めました。犬と触れ合ううちに、さらに「動物っていいな」「動物のお医者さんになりたい」と思うようになりました。
──そこから、どのようなきっかけで別の道へ進むことになったのでしょうか?
得津教授 中学生の時、自分がなりたい職業について調べる授業がありました。そこで、飼っていた柴犬が通っていた動物病院へ、お話を伺いに行ったんです。 その先生が、獣医になるための手順を包み隠さず丁寧に教えてくださいました。
「獣医になるには、まず大学の獣医学部に入らなくてはいけない。入ったら終わりではなくて、動物実験をしたり、解剖をしたり、病気になった動物たちと接したり――。かなり過酷なカリキュラムをこなす必要があるんだよ」
先生は、そういう厳しい現実を全て乗り越えて、初めて獣医さんになる道が見えてくることを、写真なども見せながら真剣に説明してくださったんです。
それを聞いて、解剖実習や臨床実習など、命や病気と正面から向き合う学びがあると知り、当時の自分にはその覚悟がまだ持てなかったんですね。それまでは、獣医さんになり、世界中を回っていろんな動物と接する夢がありました。夏休みの自由課題で、ポスターにその夢を描くほど夢中になっていたんですけど、あきらめました。最初の夢に対する挫折でした。

──その後はどうやって気持ちを切り替え、進路を決めていかれたのですか。
得津教授 改めて自分の人生を振り返った時、「もともと海の動物が好きだったな」と思い出し、海のことをもう少し勉強していく路線に切り替えました。
高校は神戸の進学校でしたが、高一から高二にかけて、自分が何をしたいのか分からなくなってしまって。でも大学受験は迫ってくるので、海のことが学べられる大学を探しました。 当時は「海洋学部」はあまりなく、「水産学部」という名前をよく耳にしました。当時、自分で調べた中では、練習船を持つ大学の中でも、北海道大学と長崎大学の水産学部が特に目に留まりました。
「ここは、『試される大地、北海道』だ!」と思い、志望校を北海道大学の水産学部に決めました。周りは関西の大学に進学する人が多くて、北大に行く人はいなかったんですけどね。合格できたので、親元を離れて、北海道へ渡りました。
──北大ではどんなことを学びましたか。
得津教授 海について学んでいく過程で、海の生態系や、生き物と物質の循環を研究しました。いろいろ考えている時に、こうした生態系を支えているのは、光合成が土台となっている「一次生産」(植物や藻類などの独立栄養生物が、光エネルギーを使って無機物から有機物を合成する過程)と呼ばれる仕組みであることに気がついたんです。
そこから、海の生態系の「起点」になっている光合成に迫りたいと思うようになりました。海の一次生産を大きく支えているのが、植物プランクトンと呼ばれる生き物たちです。
大学4年の卒業研究の時に、植物プランクトンを扱い、海の物質の循環を研究している先生の研究室に入りました。そこで植物プランクトンに触れて、面白いなと思いました。

──どういうところが面白かったのでしょうか。
得津教授 研究室の先生は、海の中の「鉄の循環」を調べていました。海の中には栄養がたくさんあっても、植物プランクトンが全然増えない海域があるんです。そこに液体に溶かした鉄をまくと、大量に植物プランクトンが増える。「栄養はたっぷりあるのに、金属の鉄が不足して植物プランクトンが増えられない海域がある」という大規模な研究をされていました。
植物プランクトンがいないと、それを食べる動物プランクトンが増えず、魚も増えません。植物プランクトンは、食物連鎖の起点なんですよね。ただ、その研究室は広い視野で海全体を研究していたので、「植物プランクトンの中で具体的に何が起きているのか」という細かいところは研究の対象外でした。
でも、僕の頭の中には、「なぜ鉄が植物プランクトンに『効く』んだろう」という疑問がずっとありました。その疑問に迫るためには、植物プランクトンのことを深く知らなければいけないと思いました。
周りの学生はもっと大きな目線で海全体の理解に興味を持っていましたが、僕は原因の根っこを知りたかった。そこから、植物プランクトン――藻類の光合成や、藻類が環境へ適応していく過程をもっと知りたいと自発的にたどり着き、大学院へと進むことになりました。
得津 隆太郎(とくつ りゅうたろう)
大分生まれ、神戸育ち。2011年北海道大学大学院生命科学院博士後期課程修了。博士(生命科学)。基礎生物学研究所、京都大学大学院理学研究科を経て、2025年4月より現職。光合成生物を中心に、環境変化に適応する仕組みとその進化を研究し、真核生物に共通する環境応答の解明にも取り組む。今の楽しみは、子どもたちの成長を見守ることと、教授室の観葉植物を増やしすぎないよう気をつけながら感性を刺激する植物を探すこと。研究の森
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