
身近なLEDライトで緑藻を育てる研究の先には、「宇宙での暮らし」が待っている――。獣医学部グリーン環境創成科学科・得津隆太郎教授が見据える未来に向けた研究は、企業から熱い視線が注がれています。その理由と、新しい学科を巣立つ学生たちの、気になる進路に迫ります。(3回目/全3回)
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「獣医」を志したグリーン環境創成科学科の得津教授が、海の起点「藻」に出会うまで(上)
顕微鏡の向こうにいる「地下アイドル」 得津教授の「推し」緑藻は?(中)
──今、研究室で、どのような研究が進められていますか?
得津教授 大きな目線で見ると、宇宙につながる研究をしています。
植物や緑藻がなぜ緑色に見えるかというと、赤や青に比べて、緑からだいだい色の光は主要な光合成色素に吸収されにくく、その一部が反射・透過されるためです。こうした光も光合成には利用されていますが、私たちは、この波長域の光をさらに有効に利用できないか研究しています。最近の植物工場では、植物の生育に合わせた赤や青などの専用LEDも使われていますが、専用の照明設備を整え、運用するにはコストがかかります。
一方で、私たちが家庭で使っている安価な白色LEDは、太陽光に比べて含まれる光の波長のバランスが異なり、緑からだいだい色の光もたくさん含まれています。
もし、緑藻や植物がこうした比較的利用しにくい波長の光を、より有効に光合成へ利用できるようになれば、高価な専用LEDを使わずに、人間が生活する環境下の光でそのまま植物を育てられる可能性があります。省エネで人間と共存できるわけです。
──その研究が、どう宇宙につながるのでしょうか。
得津教授 人類が将来、太陽系外の惑星へ移住する時代が来たとします。そこへ向かう長い宇宙航行では、太陽から遠ざかるにつれて、太陽から届く光のエネルギーが少なくなります。
そうした限られた光しか使えない閉鎖した環境の宇宙船内で、省エネ型の光合成システムがあれば、作物を育て、人間に必要な酸素や食料を賄うことができると考えています。
一般的な家庭用白色LEDに含まれる緑からだいだい色の光を、より有効に光合成へ利用できれば、光の利用効率を高められる可能性があります。私たちの研究室では、こうした家庭用白色LEDに含まれる緑からだいだい色の光を使えるようになるのかについて、研究しています。証明できれば、他の研究者たちもこの研究分野に参入し、研究が進むと思います。

──他にも進めている研究テーマはありますか。
得津教授 北里大学薬学部・大村智記念研究所の先生方との共同研究です。ノーベル賞を受賞した大村先生が切り開いてきた分野です。大村研究所には、微生物から取り出した化合物が数千種類保管されています。
その化合物を藻類に添加して、成長を促進するものや、逆に抑制するものがないかを調べています。こうした化合物が見つかれば、藻類の増殖を制御する仕組みを明らかにし、培養技術の改善につなげられる可能性があります。
逆に藻類の増殖を抑える化合物や、どのような仕組みで効くのかを明らかにできれば、将来的には、湖で藻類が大量発生して魚が死んでしまうような環境問題への新しい対策につながるかもしれません。
また、国立環境研究所(茨城県つくば市)には、1980年代から保管されている藻類があります。長年収集・保存されてきた多様な藻類株の中には、まだ十分に研究されていないものもあります。それを分けてもらって研究に使い、幅広い藻類に対応できる培養液の開発を進めています 。
藻類は、この培養液だとよく育つけど、こっちの培養液だと全然育たない、といったように、好む成分がそれぞれかなり違うんです。温度管理も手がかかります。現在は20度から25度ぐらいの間で(それぞれの藻にとって)一番いいポイントを探したりしています。
水の中だとすぐに成長して老化が始まり、死んでしまうので、ゆっくり成長させたい時は寒天のような固い培地の上で育てたりもします。そうやって、うまく育てるための環境をプロデュースするのも、大切な研究なんです。
培養できないと何もできないので、まずは多くの藻類に使える培養液を完成させて、「これを使って研究したい人はいつでも声をかけてね」と、ほかの研究者たちが活用しやすい研究基盤を作ろうとしています。「水の中をのぞいたら、いっぱい地下アイドルがいるよ」ということを、もっと知ってほしいんです。
──藻類に対する社会の関心が高まる中で、企業との連携も進んでいるのでしょうか。
得津教授 はい。最近では、藻類をベースにした産学連携コンソーシアムともやり取りをしています。 カーボンクレジット(企業間で温室効果ガスの排出削減量を売買できる仕組み)やSDGsの流れで、脱炭素に向けた政策や社会的な要請も強まっています。
そのため、二酸化炭素の排出を抑える可能性を秘めた藻類産業を始めたい企業が増えているのです。ただ、藻類の培養技術を持った人材が企業には不足しています。大規模なバイオ施設での試験は事前の細かい調整が難しいため、私たちのような大学において、実験室レベルで様々な条件を試し、良さそうな研究を企業と共有する――。こんな適材適所の役割分担を目指して、協議を進めています。
大手の食品メーカーなど、本当にいろんな企業が藻類に注目してくれています。でも、企業の方とお話しすると「藻類をいますぐ自社で産業化するのはコスト的に非常に難しい」とは言われます。
それでも、脱炭素や資源循環、環境汚染への対応が社会的に求められる中で、企業にとってもこうした課題への取り組みが重要になってきています。
実際に、サステナビリティ情報開示への対応なども企業にとって重要な経営課題になっており、この分野に何とか取り組みたい企業は増えていると感じています。でも、具体的に何から始めればいいのか分からなかったり、社内に藻類を専門とする人材が十分にいなかったりする企業が多いようです。

──学生さんたちへのメッセージはありますか。
得津教授 グリーン環境創成科学科には、「水質をすぐに改善する」など、結果が早く出るような研究に携わることを想定して入ってくる学生さんも多いようです。
私はよく医療に例えるのですが、目の前の患者さんに向き合って治療するのが臨床です。それを環境問題に言い換えると、今ある問題を直接解決する研究が「臨床」に近いですね。
一方で、うちの研究室が取り組んでいるのは基礎研究です。 いますぐ目の前の問題を解決するというよりも、十年後、五十年後、さらにその先に、多くの人や環境問題の解決につながる技術やコンセプト(根本的な考え方)を作ることを目指しています。
iPS細胞の研究なども、基礎研究から将来の応用へとつながっていった例の一つだと思います。私たちの研究が今すぐ環境問題を解決しなくても、そこで生まれた知識やコンセプトに基づいて、未来の企業や研究者が新しい技術を生み出し、環境問題の解決や人類の活動の発展につなげてくれるかもしれない。そうした知識やコンセプトを研究成果や論文、つまり人類の知として残していくことも、基礎研究の大切な役割だと考えています。
──改めて、基礎研究の意義についてはどうお考えですか。
得津教授 自由な発想で自分がやりたい研究をしつつも、それが一般の人々にとってどういう「うれしさ」があるのかをちゃんと説明できる体制を整えるべきだと思っています。
今すぐには役に立たないかもしれないけれど、将来、地球環境が変化した時に、そこで元気に生きられる藻類を作っておけば、いつか役に立つかもしれない。
そんな研究を面白がれて、人類の知の先を開拓したいという人は、基礎研究が性に合うのではないかと思います。SDGsの流れで藻類に注目が集まり、企業からのニーズも高い分野です。
――卒業生は、活躍の場が多そうです。
得津教授 大学院に進んで、教員になる人や、バイオテックなどの企業で専門性を生かして活躍したりする人を育てていきたいですね。
実際に、企業の研究開発職では大学院修了者を対象とする募集も多いように思います。学部を卒業後に専門の知識を持った営業担当などとして活躍する道もありますが、本格的に研究を仕事にしたい学生さんたちには、博士課程まで進んでほしいというのも本音です。
最近では、博士課程の人材を募集している企業はたくさんあります。教え子がそうした企業にどんどん入社して、アイデアを提案し、藻類産業を切り開いていってくれることを期待しています。
──ありがとうございました。
得津 隆太郎(とくつ りゅうたろう)
大分生まれ、神戸育ち。2011年北海道大学大学院生命科学院博士後期課程修了。博士(生命科学)。基礎生物学研究所、京都大学大学院理学研究科を経て、2025年4月より現職。光合成生物を中心に、環境変化に適応する仕組みとその進化を研究し、真核生物に共通する環境応答の解明にも取り組む。今の楽しみは、子どもたちの成長を見守ることと、教授室の観葉植物を増やしすぎないよう気をつけながら感性を刺激する植物を探すこと。研究の森
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