
顕微鏡をのぞき込んだ先には、グリーン環境創成科学科の得津隆太郎教授が「地下アイドル」と呼んで愛してやまない多様な藻類たちの姿があります。「表のアイドル」とも言える華やかな植物の陰に隠れた藻類の魅力と、逸材たちが秘めるポテンシャルに迫ります。得津教授の「推し」緑藻は?(2回目/全3回)
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「獣医」を志したグリーン環境創成科学科の得津教授が、海の起点「藻」に出会うまで(上)
──京都大学で研究を続けられていた中、どのようなきっかけで、北里大学へ移られることになったのでしょうか?
得津教授 「北里大学の獣医学部に2025年、グリーン環境創成科学科を新設します。環境系の研究所を担う人材――中でも、グリーンバイオテクノロジーを柱として研究・教育する人を探しています」
京都大学で研究していたころ、僕にそんな声がかかりました。グリーン環境創成科学科では藻類を使った研究に力を入れることになり、僕がその条件に当てはまっていたのです。
──北里大学教授に就任が決まった時、どんなお気持ちでしたか。
得津教授 まず、青森にある十和田キャンパスに行くのかな、と思いました。北里大学獣医学部がそこにあることは知っていたので。でも、よく聞いてみると、新しい学科(グリーン環境創成科学科)は「相模原キャンパス(神奈川)」にできるとのことでした。関西から大学進学で北海道へ行き、また関西に戻ってきていたので、人生初の関東での暮らしとなりました。
全国から先生方が集まって、新しい組織(学科)を作っていく――。僕はゼロから何かを作るのが好きなので、そういう機会をいただけるなら「ぜひやらせてください」と引き受けました。
着任後は、改修が進んで研究環境が徐々に整い出している様子などをSNS(交流サイト)で発信してきました。
──研究室は今、どんな体制ですか?
得津教授 私を含めて7人います。内訳は助教が1人、技術員さんが2人、大学院生が2人、学部生の4年生が1人です。 昨年できたばかりの新しい学科なので、一期生はまだ2年生で、研究室には入ってこない学年なんです。でも、運がいいことに、理学部の先生と共同研究していた縁もあり、私が着任した年に、いきなり理学部の4年生が3人も来てくれました。理学部には、外部の研究室で卒業研究ができるという制度があるんです。
今いる大学院生の2人は、その時の3人のうちの2人です。昨年度卒業した1人は漫画家志望で、卒業時に研究室にサイン色紙も置いていってくれました。
僕の研究室で基礎研究(自然現象や物質の仕組みを解明し、新しい知識や理論を積み上げる研究)をやっていることを知って、彼らは来てくれました。今年も新たに理学部から4年生が1人来てくれています。

──先生ご自身は、「基礎研究」のどんなところに魅力を感じているのでしょうか。
得津教授 私が研究している微細藻類の多くは、顕微鏡をのぞいて初めてその姿が見えてきます。ある意味で、「地下アイドル」みたいなものなんです。
地上のアイドルは、植物です。いろんな形態があり、花を咲かせて、目に見えるからすぐに分かって固定ファンもつきやすい。研究者も多いです。
でも目に見えない藻類たちも、顕微鏡をのぞくと、いろんな形がきれいに見えるんです。
──ちなみに、先生の「推し」の藻はなんですか?
得津教授 イカダモとクンショウモです。イカダモは形がかわいいですし、クンショウモは美しい。僕は今、こうした「緑藻」と呼ばれる緑の藻類に着目しています。緑藻だけでも1万~2万種類もいます。でも、海の中には緑の他に、赤や茶色、青緑色など、まだまだ多様な藻類がいるんです。
「次に売れるかもしれない、自分しか知らない逸材がいる」
そんな思いで藻類の研究をしています。人材発掘と一緒です。例えば、有名なアイドルの名前を出して「この人に注目しているんですよ」と言えば、周りも「あ、それはいいね」となりますよね。
地上のアイドルである植物の研究も同じです。でも、誰も知らない地下アイドルである藻類について「これに注目しているんだよね」と言っても、「ふーん」で終わってしまいます。
それでも、こんなに小さな生き物なのに、ちゃんと光合成もしているし、動物のように泳ぎ回る藻類たちもいる。本当に多様なんですね。
それぞれ異なる環境に適応して生きているので、そこには必ず、その「見た目」になった必然性や、その環境で生きていくための機能の違いがあるはずです。でも、その種類の多さに比べて研究している人がとても少なく、十分に調べられていない藻類がたくさんいるんです。

──その中で、人間にとって役立つ藻類もいるのですか。
得津教授 藻類たちはそれぞれいろんな特徴を持っていて、人間にとって有用なものを作る種類もいます。油を作る藻類もいますし、食用に使える栄養価の高い藻類もいます。
身近なところだと、アイス「ガリガリ君」の色付けに使われている青い色。あれはスピルリナという藍藻から抽出された色素なんです。
ただ問題なのは、そういった藻類たちが、もともといた環境だとよく増えるのに、人間の作った環境やストレス環境ではうまく育たないことがある点です。その環境への適応の仕組みを遺伝子レベルで明らかにして、有用な物質を作る藻類に応用できれば、培養しやすくなり産業につながっていくのではないかと考えています。
──そうした研究は、具体的にどう進めるのですか。
得津教授 藻類たちをすりつぶして中から遺伝子を抽出します。そこから生命の設計図を見て、他の藻類と比較します。違いがあったところがどんな機能と結びつくのか、遺伝子組み換え技術を使いながら因果関係を明らかにしていきます。
今までは、藻類の遺伝子組み換えや培養が難しかったので、研究者が増えなかった面もあると思います。培地に雑菌が混じると生育が不安定になる緑藻種もいるので、培養にも繊細な技術が必要です。
そのため、研究対象となる藻類種が限られており、これに加えて微細藻類たちは肉眼では見えにくいこともあり、なかなか日の目をあびづらかったように思います。

──そんな中で、長く緑藻を研究されてきたのですね。今は、少しずつ状況が変わってきている感じはしますか。
得津教授 そうですね。大阪・関西万博の日本館では、藻類を扱う企業と連携して、微細藻類を活用した循環型ものづくりや培養の様子が展示されました。藻類を使った産業も紹介され、「藻類由来のプラスチックで椅子を作っています」といった具体的なアピールも展示されていました。
──ようやく時代が追いついてきたのですね。藻類の魅力に世間が気づき始めたというか・・・・・・。
得津教授 やっとですね。いや、まだまだ追いついてない(笑)。
──数ある藻類の中で、研究対象として緑色の藻類を選んだのはなぜですか。
得津教授 光合成の仕組みで考えると、植物に限りなく近いからです。ワカメのような茶色い藻類だと、植物とは仕組みがかなり違うんですね。 緑藻を使えば、「分かったことが、植物や作物にも転用できる可能性があります」と(企業などにも)説明しやすいんです。
──緑の藻類は、可能性を秘めているんですね。
得津 隆太郎(とくつ りゅうたろう)
大分生まれ、神戸育ち。2011年北海道大学大学院生命科学院博士後期課程修了。博士(生命科学)。基礎生物学研究所、京都大学大学院理学研究科を経て、2025年4月より現職。光合成生物を中心に、環境変化に適応する仕組みとその進化を研究し、真核生物に共通する環境応答の解明にも取り組む。今の楽しみは、子どもたちの成長を見守ることと、教授室の観葉植物を増やしすぎないよう気をつけながら感性を刺激する植物を探すこと。研究の森
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