「千円札の人」が、ちょっと好きになる。教科書には載っていない北里柴三郎 を、学芸員さんに聞いてみた

「千円札の人」。
そう聞いて思い浮かぶのは、新しい千円札の肖像になった、学祖・北里柴三郎博士ではないでしょうか。
感染症の研究で世界的な業績を残した博士ですが、なんとなく「すごい人」「近寄りがたい」というイメージがありませんか?
でも実は、12 歳年下の留学生と大ゲンカをしたことがあるって知っていますか?
そんな”教科書にはあまり出てこない北里柴三郎”を紹介する企画展が、北里柴三郎記念博物館で開かれています。
この企画展を担当した遠藤瑠海学芸員が、展示の一部をご案内します。

――今回は、北里柴三郎ではなく「仲間たち」に注目した展示なんですね。

◆そうなんです。これまでの展示では、北里柴三郎を導いた恩師や恩人に注目することが多かったんです。でも今回は少し視点を変えました。展示で紹介しているのは、北里柴三郎と一緒に日本の近代医学を切り開いた”盟友”です。

今回は、後藤新平、金杉英五郎、荒木寅三郎の3人を深掘りしています。北里柴三郎と、時にはぶつかり合って、時には支え合って、同じ志を胸に共に駆け抜けた人たちなんですよ。

――北里柴三郎が大ゲンカしたのって誰なんですか?

◆気になりますよね(笑)。日本で初めて耳鼻咽喉科を創設した、金杉英五郎とのエピソードです。

二人が初めて会ったのは、ドイツの国際医学会で、その頃の北里柴三郎は37歳。北里が独自に考案した嫌気性菌培養装置を用いて破傷風菌を純粋培養し、さらに血清療法を確立するという、人生の中での2つの大きな業績を成し遂げ、世界的に注目されていました。そんな状況もあってか、自信満々で、偉そうな態度を取ってしまっていたようです。

そこへ25歳だった金杉英五郎が、「その態度はどうなんですか」とはっきり意見を言ったそうです。しかも、初対面で。

すると北里柴三郎も負けません。その場で大声の口論になり、周囲が驚くほどの大ゲンカになったと伝えられています。

――二人とも気が強かったんですね・・・。

 ◆そうなんです(笑)この二人の仲が悪いのは今後、日本医学界にとっての損失になると、仲裁をしたのが後藤新平です。国際医学会のあと、後藤は二人を招いて食事会を開きました。最初こそ気まずかったはずですが、後藤が上手く間を取り持ったことで、北里も金杉も「日本の医学をより発展させたい」という志が同じであることに気付き、その後は35年以上に渡り、友情が続いていきました。

後藤新平は100年先の東京を見据え、関東大震災後に都市計画を行った人物です。ちなみに、当時ではイケメンとして知られていました!

――偉人たちにまつわる印象的なエピソードはありますか?

 ◆後藤新平が、ドイツ留学からの帰国後、無実の罪で投獄されてしまったときに、固い絆を感じるエピソードがあります。北里柴三郎は、後藤新平を救うために弁護士を探し、嘆願書を書くなどしました。一方、金杉英五郎は医師という立場を生かし、「後藤新平を診察するため」という名目で、外部との連絡役を担いました。当時罪人とされた後藤新平と関わることは、自分も危険な立場に置かれるというリスクがありましたが、それを顧みずに二人は後藤を助けようとしたのです。その甲斐あってか、後藤新平は無罪となり釈放され、それを記念して雪冤会が開かれました。雪冤会には、荒木寅三郎も加わりました。

今回紹介している人物たちが成し遂げたのは、それぞれ分野の違った偉業でした。しかし熱意があり信念を曲げない、間違っていると思ったことにはハッキリと意見を言う、という性格が共通していたようです。

ちなみに私の推しは、医師の立場を利用しクレバーな対応をした、金杉英五郎です!

――ドラマみたいなエピソードですね。

◆そう思います(笑)。でも実際にあった出来事なんです。

実は今、北里柴三郎の物語を大河ドラマで届けるためのプロジェクトが、博士の故郷である熊本県小国町で行われています。北里大学も、このプロジェクトを応援しています。このエピソードを見て興味を持った方がいればぜひ、署名してくださるとうれしいです。

【関連記事】北里柴三郎を大河ドラマに 渡邉小国町長×砂塚学長 対談

今回の展示では、ここまででご紹介したような「教科書には載りにくいエピソード」をたくさん紹介しています。「北里柴三郎って、こんな人だったんだ」そう思っていただけたらうれしいですね。

――北里柴三郎は、実はいろいろな人とぶつかりあい、協力しながら偉業を成し遂げたんですね。

◆北里柴三郎というと、どうしても「偉人」というイメージが先に来ます。でも、実際にはすごく人間らしい人だったと思うんです。だからこそ、多くの人が集まり、一緒に新しい時代をつくることができた。

そういうところも知っていただけたらと思っています。

――最後に、ここまで読んでくれたみなさんへ、北里柴三郎にちなんだメッセージをお願いします。

◆私も励まされている北里柴三郎の言葉があるので、みなさんにも伝えたいです。

「君、人に熱と誠があれば何事でも達成するよ。よく世の中が行き詰まったと言う人があるが、これは大なる誤解である。世の中は決して行き詰まらぬ。もし行き詰まったものがあるならば、これは熱と誠が無いからである。」

つまり、行き詰まりは本人自身で、世の中は決して行き詰まるものではないと博士は言っていました。

学芸員は地道な仕事も多いですが、この言葉に励まされながら、「熱と誠」をもって、博士や周りの偉人たちのことをもっと世の中に知ってもらえるよう、日々資料の研究を行っています。

この展示も、一生懸命頑張って作ったので、見ていただけると嬉しいですね。

――展示を歩いていると、「偉人」というより、一人の人間としての北里柴三郎が少しずつ見えてきます。思い通りにいかず悩むこともあれば、人と衝突することもある。でも、自分の信じた道は曲げない。

そんな、教科書では出会えない"人間らしい北里柴三郎"を探しに、ぜひ博物館へ遊びに来てみてください。

北里柴三郎記念博物館
【場所】東京都港区白金5-9-1 北里大学白金キャンパス内
【開館時間】火曜~土曜 10:00 ~ 17:00 (入館16:30まで)
※祝日、開校記念日 (4/20)、夏期休暇(8/9~17)は休館
【入館料】無料
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 企画展情報
「近代日本医学の道程Ⅰ~共に時代を駆け抜けた盟友たち~」
開催期間:2026年4月1日(水)~9月26日(土)
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