なぜクラゲはふわふわしているの?「えのすい」で水槽を管理する北里大学海洋生命科学部の卒業生、寺西さんに聞く水族館の裏側(中)

 クラゲを“ふわふわ”と美しく見せる水槽の環境づくり――。水族館の仕事は、飼育だけでなく、設備管理や水質維持など多岐にわたります。2024年に海洋生命科学部を卒業した寺西美優さんは、新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市)で水槽につながる配管や設備の維持管理を担当しています。北里大学での学びや、狭き門といわれる水族館への就職活動について話を聞きました。(2回目/全3回)

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「新江ノ島水族館でクラゲを飼育する」――。そんな夢を叶えるために、渡部さんが北里大学海洋生命学部を選んだ理由とは?(上)

――海洋生命科学部に入学したのはなぜですか?

 ◆結構勢いでした。海洋生命科学部には、魚に強い思い入れを持って入学する人が多いです。でも私は、高校時代まで魚に関して胸を張って言えるような経験はなく、名前を知っているのも鮭やサンマなど食卓に並ぶ魚くらいでした。

――そうだったんですか。では、どうして高校時代に魚について学ぼうと思ったのですか?

 ◆英語は好きだったのですが、他に熱中できることを探していました。そんな時、YouTubeで水族館のシャチのショーの動画を偶然見たんです。画面を見た瞬間、「こういう仕事をしてみたい!」と思いました。座っているのが苦手で、将来はデスクワークではなく“動きのある仕事”をしたいと考えていたことも後押しになりました。
 そこから海洋系の大学を調べ、自宅から通いやすい北里大学を第一志望にして受験し、入学することができました。

――高校時代にはそこまで魚に思い入れがなかったんですね。

 大学に入ってからが、私にとって大きな転機でした。1年生の時はコロナ禍でオンライン授業でしたが、2年生から実験が始まりました。
 魚の液浸標本を見て種同定する実習があり、特徴を探して「これがマサバで、こっちがゴマサバ?」と種を見分けていくのですが、最初は本当に何も分からなくて、まさに伸びしろしかない状態でした(笑)。
 それでも、ひれのとげやすじの数で魚種が変わるなど、新しいことを知るたびに驚きがあって、魚のおもしろさにどんどん引き込まれていきました。
 海洋生命科学部には、入学時点で魚に詳しい人も多く、「おじいちゃんの船でよく釣りに行っていました」「高校でアサリの研究をしていました」という人もいましたね。

―― ひれのとげの数で、魚の種類が変わるんですね。

 「日本産魚類検索 全種の同定」という分厚い本があり、それをもとに魚の特徴から種を絞り込みます。淡々と魚の標本を見ながら「これかな、これかな」って魚の種類を同定するのがすごく面白かったです。
  他にも、魚を解剖する授業もありました。死んだばかりの魚や、生きている魚に麻酔をかけてお腹を開けて内臓を見るので……最初は「そんなことしたくないよ!」という気持ちだったんです。でも、やってみたら一番ハマりしまして。

――どういうところにハマりましたか?

 魚の種類が異なると、外見だけでなく胃や浮袋など内臓の大きさや形、つくりが結構違うんです。腹膜が黒くなっていたり、胃がなかったりとか。とにかく、興味深いことが多かったです。
 あと、私はセルフネイルのような細かい作業が好きで、得意でした。脳の解剖がきれいにできた時は先生に「器用だね」とほめられて、部位についても教えていただけてうれしかったですね。
 また、北里大学には三宅裕志教授が顧問を務める「北里アクアリウムラボ」という小さな水族館があり、飼育作業に加え、企画・運営・広報などに学生が主体的に取り組みますが、そのメンバーでした。

――本格的な水族館ですね。学生生活も忙しそうです。

 ◆大学に登校したら、朝に飼育作業をして、昼間の授業の合間には魚を紹介するブログを書いて、投稿していました。
https://note.com/kitasato_labo
 授業の合間に水槽の様子を見に行って、病気の魚をケアしたり、水槽の水漏れが起きていたらトラブル対応をしたり、エサをあげたり――。他にも展示の企画書を書いたり、ミーティングをしたり、毎日忙しかったですね。そんな経験を経て、「水族館で働きたい」と思うようになりました。

写真1

―― 就職活動はどうでしたか?

 大学4年生の時、私はアクアリウムラボの副リーダーでした。アクアリウムラボに全力で向き合っていて忙しかったので、「(大学4年の11月に)アクアリウムラボを引退するまでは、就職活動はできない」と思っていました。
 大学4年生になると、先に就職が決まっていく同級生が多かったのですが、私は就職活動よりラボの活動を優先していました。でも、ある日、大学の海洋生命科学部の事務の方が、「就活はどうなの?」と話しかけてくださって……。
 「アクアリウムラボでやり残していることがあるので、まだ就活はできません」と正直に話したら、「今度、新江ノ島水族館の説明会がオンラインであるから、それだけは受けたら?」と勧めてくださったんです。それで、「分かりました、それだけは行きます」と応募してみたら、奇跡的にうまく進んで、最終的に内定をいただけたんです。

――水族館への就職は狭き門とも言われますが、実際に感じた難しさはありましたか?

 水族館で働きたい学生は多く、大学2年生ごろから自己分析や業界研究を始める人もいます。ただ、水族館は募集が少なく、大学3~4年生になると「厳しいかもしれない」と別の進路を選ぶ人も増えていきます。
 新江ノ島水族館(江ノ島マリンコーポレーション)は、最近は毎年募集がありますが、数年に1回しか採用しない水族館も多いです。食品メーカーや養殖業、漁業など、魚に関わる別の仕事に進む同期もたくさんいました。だからこそ、水族館への就職は“タイミングと運”も大きいと感じています。

――今は新江ノ島水族館で飼育設備の管理をされているそうですが、面接の時には、配属は希望されたんですか?

 希望は特に伝えませんでした。ただ、面接では大学でのアクアリウムラボの経験から、「力仕事や汚れ作業を喜んでやります。半年洗っていない汚い濾過槽に手を突っ込んで洗えます!」「汚い水槽に裸足で入ります!」とアピールしました。自分の強みがそこだったので。汚れ仕事は、嫌がる人も多いですよね。

――飼育設備の管理は、どういうお仕事ですか?

 今は7人で水族館の飼育設備を管理しています。例えばクラゲを飼育する水槽は、配管が詰まりやすいので、手や道具を使って詰まりを取り除くこともします。力仕事と汚れ作業が多いので、アクアリウムラボでの経験と重なります。

写真2

―― 水族館の大きな設備を管理するのは、かなり大変なのではないですか?

 イルカがパフォーマンスを行う「イルカショースタジアム」のプールはとても大きく、ろ過機の洗浄作業だけでも時間がかかります。自分自身は汚れませんが、設備を動かすためにバルブを操作したり、洗浄中の濾材の状態を確認したりと、慎重さが求められる仕事です。操作を誤ると配管が割れてしまうこともあるので、毎日の作業ですが緊張感を持ち続ける必要があります。
 また、大規模な修繕が必要な場合は外部の協力会社に依頼するため、担当者の方とのやりとりも多く、設備管理はコミュニケーションも欠かせません。

――クラゲの水槽は繊細な管理が必要だと聞きます。どのような点が難しいのでしょうか?

 はい。クラゲの水槽は、配管がとても詰まりやすいんです。クラゲに与えるエサを栄養にして、配管の内側にヒドロ虫というクラゲの仲間が付着して繁殖してしまうことがあります。そうなると水が通る道が狭くなり、最悪の場合は水があふれてしまいます。
 クラゲの大半は水流がないと、ふわふわと漂わずに底に沈んでしまいます。水族館で見られる“ふわふわ”の状態を保つためには、配管を常にきれいにして水がしっかり流れるようにしておくことが欠かせません。

写真3

―― 生き物を育てる飼育担当になりたい気持ちもありますか?

 そうですね。そういう気持ちもまだあります。
 大学時代は毎日アクアリウムラボの魚たちを見て「今日も元気にエサ食べているか?」「傷ができてないか?」と、魚たちに話しかけていたんですけど、今はその対象が「設備」に変わったような感じです。 
 設備に話しかけてはいませんが、「今日も正常に動いているか」を毎日確認していますし、変な音がすると「なんか変な音出ているけど大丈夫?」と気にかけたりして。
 小さな変化を見落とさないことが大切なのは、生き物も設備も共通しています。

――大学の授業で、今の仕事に特に役立っていると感じる経験はありますか?

 すべての経験がつながっていると感じていますが、特に視野を広げる良い機会となったのは実習でした。乗船実習や北海道まで行って研究する実習があり、とても印象に残っています。忙しくて参加しない学生もいましたが、私は参加できる機会があれば挑戦したくて、いろいろな実習の抽選に応募していました。

――どういうところが特に印象深かったですか?

 ドレッジ(海底をすくい取るようにして貝や魚を捕る、底引き網の一種)で海底からガバッと砂ごと生き物を捕って、船の上でザバッとぶちまけて――。その捕れた生き物を、海水で洗いながら分類していきます。
  波が荒れていると船が揺れて過酷ですし、「何もいない! 苦労したのに」と思う時もありますが、船長が「だめ元でも曳こう」と降ろした網が豊作で、希少な深海魚がたくさん入っている時もあります。
 海では知らない魚にたくさん出会えます。やっぱりフィールドである海に出て、環境と魚を見ないと分からないことがたくさんあるんです。
 取れた砂を大きいバットに入れて運んで、洗い出しをする作業もあります。腰が痛くなりますが、そこでフィールドワークの大変さが経験できるのも楽しかったです。あの経験で根性ついたかな、と思います。就職活動の面接でも、ドロドロのカッパを着た写真をエントリーシートに貼り付けて、アピールしました。

―― 研究室ではどのようなことを研究しましたか?

 天野勝文教授の水族生理学研究室で、(クモヒトデやウニなど)無脊椎動物の脳の分布について研究していました。ひたすらクモヒトデの盤を固定してパラフィンに埋めて、薄切り切片を作って染色してちゃんと染まっているか確認して考察して……を繰り返していました。

写真4

―― 最後に、受験生や中高生へのメッセージをお願いします。

 ◆オープンキャンパスでは、水族館で働きたいという受験生から――
 「大学院に進学した方がいいですか?」
 「学芸員資格は取った方がいいですか?」
 「(水族館での就職を目指せる)専門学校と迷っています」
 ……といった相談を本当によく受けます。
 魚の研究を深めたいなら大学院に進む道もありますし、水族館で飼育・ショー・研究など幅広く関わりたいのであれば、北里大学の海洋生命科学部で学ぶことは一つの選択肢になると思います。
 ただ、最も大きいのは 「大学に入ってから何をするか」 です。
 サークルやアルバイトで忙しく、授業の単位は取れていても実習に参加していない、研究室にもあまり行っていない――となると、どうしても他の人と差がつきませんし、就職活動の面接で話せる経験も少なくなってしまいます。
 海洋生命科学部には、現場で経験を積めるチャンスがたくさんあります。ぜひ積極的に動いて、いろいろな経験を自分のものにしてほしいと思います。

寺西 美優(てらにし みゆ)
北里大学海洋生命科学部 海洋生命科学科卒業。現在は、新江ノ島水族館で飼育設備を担当し、3年目。幼少期から動物や自然に触れる機会が多く、活発で好奇心旺盛な性格。大学時代、水族生理学研究室で棘皮動物における脳の分布について学んだ。「北里アクアリウムラボ」で水族館の運営に携わり、周囲の多くの指導者によって根気強さを培った。

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