北里大学での学びが、「えのすい」への道を開いた。海洋生命科学部の卒業生2人が語る、就職につながる経験(下)

 クラゲの常設展示に世界で初めて成功した「新江ノ島水族館」(神奈川県藤沢市)には、多くの北里大学の卒業生が働いています。いずれも海洋生命科学部出身で、渡部舞さんはクラゲの飼育などを担当。2年後輩の寺西美優さんは、水槽などの設備管理を通じて水族館を支えています。北里大学内にある水族館「北里アクアリウムラボ」の運営や船に乗る実習など、海洋生命科学部ならではの学びが、狭き門である新江ノ島水族館への就職にもつながったようです。大学での思い出や就職活動、水族館での仕事などについて、2人に語り合ってもらいました。(3回目/全3回)

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「新江ノ島水族館でクラゲを飼育する」――。夢を叶えるために、渡部さんが北里大学海洋生命科学部を選んだ理由とは?(上)

なぜクラゲはふわふわしているの?「えのすい」で水槽を管理する北里大学海洋生命科学部の卒業生、寺西さんに聞く水族館の裏側(中)

――北里大学で、印象的だった授業を教えてください。

 渡部さん 船に乗る実習です。
 寺西さん (乗船実習では)底引き網などを使って海の生き物を捕り、どんな生物がその海に生息しているかを調査したりします。魚の構成だけでなく、水温や塩分などの環境に関するデータの取り方なども学びました。
 渡部さん 海での生活や、データ観測などを学生のうちに知ることができるのは、就職活動でも強みになりました。また、国立大学が所有している船を共同利用という形で使わせてもらうこともありました。広島大学の船に乗るために広島まで行ったこともあります。
 実習では、寺西さんと一緒に船に乗ったこともあるんです! その時、私は大学を卒業して水族館で働き始めていましたが、寺西さんは当時、大学生でした。大学の先生が「水族館の職員も、展示用の生き物が欲しいだろうから」と誘ってくださったので、卒業後も参加することができました。

――お二人は、サークルやボランティア活動などをしていましたか?

 渡部さん 北里大学相模原キャンパスにある「北里アクアリウムラボ」という学生主体の水族館で活動していました。
 寺西さん  サークルは軽音部でしたが、私も大学生の時、アクアリウムラボのメンバーでした。水槽のフィルターやろ過槽を洗ったり、水槽をゼロから立てたりするので、水槽の仕組みの基礎知識を得ることができ、今の仕事にも生きています。
 振り返ると、大学生活は、アクアリウムラボを中心に回っていました。朝は少し早めに大学に来て、飼育作業をしてから授業を受けていました。夏休みやお正月も関係なく、みんなでシフトを組んで魚の世話と水槽の管理をしていましたね。「水族館に就職したい」という目標を持っている人が多いからこそ、頑張れるんだと思います。
  あと、渡部さんに、アクアリウムラボでクラゲやポリプの育て方を教わったんです。「水換えの時はこうやって優しくやるんだよ」「淡水は絶対に入れちゃダメだよ」って……。
 渡部さん そうでしたね(笑)。寺西さんのことは、「元気でしっかりあいさつをしてくれる子だな」と印象に残っていました。
 アクアリウムラボで、「魚の見せ方」を考え続けた経験は、今の仕事にも役立っています。当時から、どうやったら魚の魅力を面白くお客さまに伝えられるか工夫して、解説板を書いていました。今でも新江ノ島水族館の水槽近くに置いている解説や、公式サイト「えのすいトリーター日誌」を書いています。
 例えば、私たちが近くの海で採集してきたすごく小さなクラゲを展示する時には、ただ展示するだけだと、何がいるのか分かりにくい水槽になってしまいます。ですから、「諦めずに探してください!」といった言葉を添えて、親しみを持って見てもらえるように工夫しています。

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――水族館では、書いて伝える仕事も多いんですね。海洋生命科学部の学生さんの多くが、「北里アクアリウムラボ」に参加しているんですか?

 渡部さん そうですね。ただ、海洋生命科学部は、1学年で200人弱くらい学生がいるので、全員が入れるわけではないんです(※現在、参加できる人数は40人程度)。
 熱意を確認する面接などの選考を経て、メンバーが決まります。人が多すぎると、シフトに入りにくくなり、飼育などを担当できる機会も減るので……。活動期間は2年生から4年生までで、4年生は11月の学園祭での展示をもって引退します。

――改めて、北里大学はどんな大学ですか?

 渡部さん 先生も含めて優しい人が多い気がします。
 寺西さん 事務職員の方も「お母さん気質」の方が多いというか……。 実験のレポートを全然出さない同期がいたんですが、講義室に来て授業が終わった時にマイクで「学籍番号〇番の〇〇さん、前に来てください! レポート出てないよ!」って堂々と怒られていて(笑)。単位を落としそうでも、大学ではほったらかしにされる場合も多いはずなのに、そこまで面倒を見てくれていました。海洋生命科学部は学生数も少ないので、(先生や事務職員さんと)距離が近いです。

――海洋生命科学部の卒業生は、水族館への就職を目指している人も多いのでしょうか?

 寺西さん はい。私の周りでもやはり水族館志望が多かったと思います。新江ノ島水族館の現場で働いているスタッフは、大学の海洋系学部の出身者が多いですし、北里大学海洋生命科学部のOB・OGも多いです。社内の慰労会で写真を撮ると「結構、北里大の出身者がいるな」と感じますね。

――飼育担当の渡部さんが新江ノ島水族館に入社した2年後に、設備担当の寺西さんも入社しました。お互いの仕事をどう見ていますか?

 ・渡部さんのとある一日

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・寺西さんのとある一日

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 渡部さん 設備担当のみなさんには、とてもお世話になっています。生き物を良い状態で飼うためには水槽などの設備を整えておかなければならないので、みなさんがいなかったら私たちは安心して働けません……。クーラーが壊れたり、水槽の水漏れがあったり――。「助けてください!」と設備担当さんを呼ぶと、すぐに飛んできてくれるので心強いです。
 寺西さん お互い、忙しさにムラがあるんですよね。普段はそれぞれルーティン作業をしていて、「今日は平和でゆったりだな」と思っていたら、午後になって水族館内でトラブルがたくさん起き、急に走り回っていることもあります。水槽の水漏れが起きたり、水槽が冷えなくなって「氷を入れなきゃ! 原因を見つけなきゃ!」となったり、どこかが漏電していたり……。水槽内のちょっとした変化が、生き物の命に影響するから、大変です。

――入社してから「水族館ってこんなところなんだ!」とびっくりしたり、ギャップを感じたりしたことはありますか?

 寺西さん 私はもともと、北里大学に入るまでは魚といえば、鮭のような食べる魚しか知らなかったくらいでした。大学で勉強してから、魚に多少は詳しくなりましたが、魚は奥深いことが多くて……。今も驚くことばかりです。一方で、水族館の裏側にある設備にもびっくりしました。
 水族館に来てくださるお客さまにはきれいな水槽だけを見ていただいていますが、壁を1枚隔てた裏側には、太い配管が複雑に通っていて、ポンプなどの設備につながっているんです。初めてバックヤードを見た時は、「こんなに狭いの!? エサをあげる時、どこから入るの!?」と驚きました。
 渡部さん ギャップといえば、お客さまの前に出ている時間がほとんどないことです。小さい頃から新江ノ島水族館で働くことを夢見ていたので、飼育員(トリーター)さんにすごく興味があって。だから、水族館へ来るたびにトリーターさんに注目していたのですが……。
 いざトリーターとして働いてみると、お客さまからは見えない裏での作業が多くて。本当はもっと前に出て、お客さまといろいろお話できたらいいなと思うんですが、その時間を取るのが難しいくらいやるべきことが多いなと思いました……。時間帯によってやることが決まっているんです。
 ただ、ダイバーとして「ダイビングショー」に出演するのも私の仕事です。私が水槽(相模湾大水槽)に潜って、カメラでお客さまからリクエストがあった生き物を写し、MCがそれを紹介するんです。お客さまからのリクエストは、言葉ではなく絵で描いてもらいます。水槽の中から、子どもたちが描いた生き物の絵を見ると「あ、あの魚を描いてくれたんだな」と分かります。子どもたちが、魚を細かいところまでちゃんと見て描いてくれていることが分かると、嬉しくなります。

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――就職活動はいかがでしたか?

 渡部さん 私が新江ノ島水族館などを運営する江ノ島マリンコーポレーションに入社した時、同期入社は3人でした。江ノ島マリンコーポレーションは、他に「世界淡水魚園水族館 アクア・トト ぎふ」(岐阜県各務原市)や、「相模川ふれあい科学館」(相模原市中央区)も運営しているので、そちらに配属されたり異動したりする可能性もあります。採用面接は「アクア・トト ぎふ」であったので、岐阜まで行きました。

――同期は3人! 水族館への就職は、「狭き門」ですね……。採用試験を毎年はやっていない水族館も多いと聞きます。

 寺西さん 本当に、運が良かったとしか思えないです。私は、アクアリウムラボの活動を優先しすぎて、なかなか就職活動を始められなくて。新江ノ島水族館(江ノ島マリンコーポレーション)で採用試験があることを大学の事務の方に教えていただいたことがきっかけで、試験を受けました。
 渡部さん 大学院に進んで、クラゲの研究をもう少しやってみようかと迷っていた時期もありました。でも、私が大学生の時に、運良く新江ノ島水族館の採用試験がありました。次の年に募集があるか分からない中で「一番行きたい水族館だから」と、思い切って挑戦しました。

――北里大学で頑張ったから、運もつかめたんですね。

  渡部さん そうかもしれないですね。
  寺西さん 諦めずに、北里大学で目の前のことを楽しんで頑張っていたら、気づけばそれが力になっていたのだと思います。

――ありがとうございました。

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