
クラゲの生態には、分かっていないことが多い――。1973年、クラゲの常設展示に世界で初めて成功した「新江ノ島水族館」(神奈川県藤沢市)では、北里大学海洋生命科学部の卒業生が多く働いています。渡部舞さん(2022年卒)もその一人で、中学生の頃から大好きだったクラゲについて学ぼうと、同学部に公募推薦で合格を果たし入学しました。大学でもクラゲの生態について深く学び、学生に人気の新江ノ島水族館への就職を実現。現在はクラゲの飼育を担当する他、水槽に潜るショーにも出演しています。渡部さんに、北里大学での学びと今のお仕事、謎が多いクラゲの生態などについて詳しく聞きました。(1回目/全3回)
◆はい。新江ノ島水族館の近くに住んでいたので、幼い頃から家族でよく遊びに行きました。クラゲや深海の生き物を見ることができて、面白い水族館だとずっと思っていました。
特に、中学生の時からクラゲが好きでした。中学2年生の時には、「新江ノ島水族館」のクラゲを育てるワークショップにも参加して、クラゲの一生などに興味を持ちました。
また同じ時期に、現在一緒に働いている2人の新江ノ島水族館の飼育員(トリーター)にお会いする機会がありました。そこでクラゲの一生や生態のお話をいろいろ聞くこともできました。
クラゲには、みなさんがよく知る(丸い)形だけでなく、岩などにくっついて、イソギンチャクのように生活する時期(ポリプ)があります。形も違いますし、その状態だと何十年も生きられるんです。同じ場所にずっとくっついている生き方が、不思議で面白いと思いました。もっとクラゲのことを知りたい、研究もやってみたいと考えるようになりました。
◆高校時代、進路について調べていたら、北里大学の三宅裕志教授がクラゲの研究をされていることを知りました。三宅教授の研究室のホームページを見て「ここで研究したい」と思いました。三宅教授は、新江ノ島水族館で働いていたこともある方です。
高校3年生の時に北里大学のオープンキャンパスに行き、三宅教授がいらっしゃるのをお見かけしました。ホームページで、三宅教授の写真を見ていたのですぐに分かりました。そこでいろいろとお話を聞いて、「三宅教授のもとで学びたい」と強く思い、公募推薦で海洋生命科学部を受験して高校3年生の11月に合格しました。
◆コロナ禍でオンライン授業が多く、苦しい時期も過ごしましたが、実習もありました。広島大学の練習船に乗る機会を作ってくださり、そこでもクラゲを採集しました。
また、学生が運営する学内の水族館「北里アクアリウムラボ」に所属し、2年生から4年生までクラゲの飼育を経験させていただいたことが、今の仕事に役立っていると思います。

◆クラゲの生態は、まだ分かっていないことがたくさんあります。一生(どのように生まれて、死んでいくかのライフサイクル)の全容が明らかになっていないクラゲもいるんです。
例えば、夏になると危険な生き物として話題になる「カツオノエボシ」も、風が強い日には砂浜に打ち上がりますが、どうやって大人になるのかが分かっていません。そのため、新江ノ島水族館でも、特設コーナーで一時的に紹介することはありますが、常設展示には至っていません。https://www.enosui.com/diaryentry.php?eid=07004
私たちは砂浜にいる、ある程度育ったクラゲを採集して飼育しています。カツオノエボシについても、今後長く飼育していく中で子どもが生まれ、一生を水族館の中で展示できるようになるかもしれません。
◆はい。近くの砂浜へ採集に行きます。また、新江ノ島水族館には「毎日クラゲ採集」というコーナーがあり、天気が悪く危なくて自転車に乗れないような日以外は毎日、私たち職員が江の島の海へ自転車で採集に行っています。
◆目で見えないくらい小さなクラゲを水槽に入れているので、お客さまにクラゲの形をイメージしてもらいやすいよう、ホワイトボードにイラストや解説を描いています。よく見ると、担当者によってイラストのカラーが出るので面白いですよ。
また、毎日クラゲを採集する海域の水温や塩分などのデータを記録し、水族館内で共有しています。長く記録を取っていると、「こういう塩分量や水温の日はこのクラゲが多い」といった季節的な変化が見えるようになります。

◆はい。一番大きな相模湾大水槽に潜って、魚たちを紹介するショーをやっています。大学生の時に、潜水士の資格とダイビングのライセンスを取りました。
三宅教授に「新江ノ島水族館で働くにはどうしたらいいですか?」と相談した際、「水族館の飼育員はいろいろな仕事をやらなきゃいけないから、学校で習ってきたこと全部をフル活用できる仕事だよ」と言われました。「小学校からやってきたことも全部大事になる」「苦手な数学などもいずれ使うことになる」とも言われましたが、実際に薬品の濃度計算で算数や数学の知識を活用しています。

◆生き物は日々、状態が少しずつ変わっていくので、小さな変化を見逃さないことが大切です。自分一人ではなく、クラゲや深海生物を飼育するチーム全体(現在8人)で、情報を共有しています。
◆多すぎて個体数は把握しきれませんが、展示に出ているだけで50種類、ポリプを含めるとバックヤードにはトータルで100種類くらいいます。季節によって育ちやすいクラゲも変わりますし、水槽も限られているので、水槽を掃除するタイミングで別の水槽に移動させるなどしています。
◆小さいブラインシュリンプ(甲殻類の赤ちゃん)を毎日孵化させて、孵化直後のものをあげることが多いです。他に魚や牡蠣のミンチをあげることもあります。海の中では口に入るサイズのプランクトンや、別の種類のクラゲ、魚を食べている場合もあるので、それに近い栄養素があるものをあげるようにしています。
◆例えば、ミズクラゲの傘の表面がボコボコしてきたりすると、不調な証拠です。
また、水槽内でエサがまんべんなく行き渡らないと、同じ水槽内でもクラゲの大きさにばらつきが出てしまいます。
クラゲは水の流れに逆らって泳げないプランクトンですが、それぞれが傘を動かしやすい水流の向きや強さの“好み”があるため、水流を調整したり水槽の位置を変えたりして様子を見ます。とにかくクラゲを「よく見ること」が大事です。

◆寿命の捉え方は難しいところです。ポリプの状態だと、10年以上飼育しているものがたくさんあります。無性生殖でクローンを増やしていくので、「寿命はないのではないか」と考えている方もいます。
◆種類によって生き方が多様なところです。特に面白いと思うのは、(魚や貝の表面など)他の生き物にくっついて生活している小さなクラゲのポリプです。他の生き物と関わり合って生きているという、まだ知られていない生態をみなさんに紹介し、クラゲがどんな場所で過ごしているかを知ってもらえたらと思っています。
◆三宅教授の「深海生物学」は特に面白かったです。実際に潜水船に乗った際の体験談を聞いたり、その時に撮影した生き物の映像を見せていただいたりして、とても印象に残っています。
他にも、役に立っている授業はたくさんあります。水族館で魚を担当していた時期もあったので、「魚類学」で学んだことや、魚に触れた経験、基本的なレポートの書き方などを教えていただいたことが、今の仕事に生きています。
◆自分が「好きだな」と思うことを大事にしてください。好きなことをやるためには、さまざまな知識や経験が役に立ちます。中学・高校の授業は、「将来に関係ない」と思えるかもしれません。
私は理系に進学しましたが、例えば水族館では、ホームページで生き物を紹介する「えのすいトリーター日誌」を書く仕事もあり、そんな時には「国語」が大切になります。海を理解するためには「地学」「化学」「物理学」などの理系科目の知識も必要です。いろいろな分野のことを知っていると、世界が広がると思います。
渡部 舞(わたべ まい)
北里大学海洋生命科学部海洋生命科学科卒業。現在は、新江ノ島水族館でクラゲと深海生物を担当している。
釣り好きの祖父の影響で海の生き物に興味を持ち、小学生の頃からの夢は水族館の飼育員だった。
中学生の頃、近所の科学館のイベントでクラゲの生態の面白さに魅了された。クラゲのことを学びたいという思いから、北里大学を目指した。大学時代は水圏生態学研究室(現・海産無脊椎動物学研究室)で、クラゲの分類学を学んだ。社会とつながる
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