ビジネス×博士は相性がいい 博士人材が企業と交流する「北里研究者サミットDocTALK」レポート

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 科学技術を理解し、社会課題を解決できる「博士人材」を求める企業が増えている――。北里大学の博士課程で学ぶ学生たちと、研究者や企業の担当者が交流する「第4回北里研究者サミットDocTALK~社会接点創出交流会~」が8月26日、北里大学白金キャンパス(東京都港区)で開かれました。今回は、サミット内で開催された博士人材の進路選択や将来のキャリアについて考える「キャリアセミナー」の様子を、詳しくレポートします。(1回目/全2回)

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 博士課程の学生とは、大学を卒業した後に大学院に進み、さらに深く専門的な研究を続けている学生のことです。北里大学大学院には現在約260人が在籍しています。博士課程を修了し、「博士号(Ph.D.)」を取得した高度な専門知識と課題解決能力を持つ「博士人材」は現在、企業から大きな注目を集めています。

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 セミナーの冒頭で、博士人材のキャリア開発を支援しているエマージングテクノロジーズの深澤知憲・代表取締役社長が、企業の採用の現状について説明。「製薬企業だけでなく、化学業界などの製造業を中心に、さまざまな業界で博士人材の採用の枠が増えています」と、明るい見通しを示しました。

 なぜ企業は、博士人材を求めているのでしょうか。深澤社長は 「企業が、イノベーションを創出していくために必要な人材と考えているからです」と語ります。

 「研究とは、自分で課題を設定し、解決していくことの繰り返しです。この研究プロセスを企業でも発揮し、社会課題を解決することが期待されています。博士人材とビジネスは、相性がいいです」

有機合成の技術を活かし、農薬の開発現場へ

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 続いて、産業界とアカデミアで活躍する北里大学の卒業生が、登壇しました。

 最初に登壇したのは、日本農薬・生産技術研究所プロセス化学グループ(鹿島事業所)研究主任の渡邊彰人さん。現在、新しい殺虫剤の製品化に向けた研究開発に携わっています。

 渡邊さんは、北里大学の理学部を卒業後、北里大学大学院感染制御科学府に進学しました。大学院では、生物有機化学研究室の砂塚敏明教授(北里大学学長)のもと、卒業研究から博士後期課程修了まで、天然物の全合成研究に携わりました。全合成とは、自然界に存在する複雑な物質を、人工的に一から作り出す化学の技術のことです。

 就職活動を始めたころは、製薬企業を中心に志望していましたが、その後、化合物を新しく作り出す「有機合成」の技術が生かせる企業へ関心を広げました。その結果、農薬を製造する日本農薬に入社が決まりました。

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 日本農薬に入社後、渡邊さんは新しい殺虫剤の成分を作り出す部署に配属されました。「個人の裁量で研究が進められる魅力的な環境です。自分がやりたいと言えば、自由な発想で化合物の合成を試すことができますし、きちんと評価してもらえます」と語ります。

 そうした環境の中、先輩との雑談からアイデアが広がり、自らが発明者として特許を出願するほどの大きな発見があったそうです。

 渡邊さんは入社後、何もないところから「0→1」で新しい成分を生み出す合成グループ、工場での大量生産への橋渡しをする総合研究所のプロセス化学グループ、そして製品化の最前線である鹿島事業所へと異動を重ね、キャリアアップしながら成長を続けています。

 こうした企業での活躍の土台には、博士課程での厳しい研究の日々があると渡邊さんは強調します。「直面した課題を突破するために考える『課題解決力』や『チャレンジ力』、『分析データを読み解いて次に繋げる力』。そして、失敗しても諦めない『忍耐力』が、企業で求められています」

 最後に渡邊さんは、これから社会に出る学生たちへ向けて、「大学院での研究の技術や知識が無駄になることはありません。学生の皆さんの新しい発想が、新たな製品を生む可能性を秘めていると思います」と語りかけました。

古いパソコンで研究室の解析環境を整えた! 生物分野でデータ活用を

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 ちとせ研究所の伊藤駿瑛さんは、北里大学理学部で生物科学を学び、生き物の細胞や遺伝子の働きを調べる「発生学」を研究し、北里大学大学院理学研究科生物科学専攻の博士課程まで進みました。「生殖細胞の性別がどう決まるのかを解明するため、マウスを使った実験をたくさんしていました」と当時を振り返ります。

 一方で、現在の伊藤さんの仕事は、微生物を育てる(培養する)条件を人工知能(AI)に任せて自動化するという、データ分析や情報処理が中心です。

 伊藤さんは博士課程での研究の中で、生物分野におけるビッグデータ活用の重要性を実感しました。そして、「実社会で経験を積みながら、バイオの力で社会貢献がしたい」と考え、ちとせ研究所に入社します。

 その採用面接で評価されたのは、専門外の挑戦でした。当時、伊藤さんが所属していた研究室(幹細胞学講座)には、遺伝子のデータを解析するためのパソコン環境がなかったそうです。

「ちょうど医学部がパソコンを入れ替える時期で、『いらなくなったパソコンを持って行っていいですよ』と言われたので、いくつかもらってきたんです。それを使って、キーボードで命令を打ち込む『コマンド操作』はどうやるのかなど、試行錯誤しながら研究室に解析環境を作り上げました」

 自ら研究室の解析環境を作り上げたこのエピソードを、伊藤さんは面接で話したといいます。

「後になって、面接に同席していた上司から『あの経験を買って採用したんだよ』と教えてもらいました。研究の専門知識だけでなく、思いもしない経験が企業から評価されることがあります」と振り返りました。

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 こうしてちとせ研究所に入社した伊藤さんは現在、これまで職人の勘に頼っていた微生物の培養を、AIを使って自動で最適な状態にする仕事に取り組んでいます。

「職人さんが見た目や匂いを確認しながら培養の条件を決めていますが、その感覚を身につけるには時間がかかります。後継者も不足しているため、その役割をAIに任せようという取り組みです」

 実際に、AIが培養の途中で温度や酸性度を自分で判断して調整し、人間が考えた条件よりも生産量を増やすことに成功したといいます。 伊藤さんは、大学院で鍛えられた「自ら課題を見つけて解決する力」や生物学の知識が、今の大きな強みになっていると語ります。

 「皆さんも、研究以外のことにも新たな挑戦をしてみてください。ただ(先生の指示などを)『待つ』のではなく、研究室で困っていることがないか、自分で見つけて拾ってみてください」

自分にとって、何が大切か

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 3人目に登壇したのは、北里大学薬学部の金倫基教授です。北里大学薬学部を卒業し、北里大学大学院薬学研究科博士課程(微生物学専攻)を修了後、アメリカにおいては大学とベンチャー企業、そして日本では大学で、研究を追求してきました。

 金教授の研究の原点は、大学院生時代にありました。ヤクルトの研究所で研究する機会があり、そこで乳酸菌「シロタ株」をマウスに与える実験をしました。

 「シロタ株をマウスに投与すると、6日後に脾臓が5倍ぐらいに膨れ上がり、免疫が活性化することがわかりました。病気を引き起こす細菌がいる一方で、体を守ってくれる細菌もいる。同じ細菌でも宿主をこれほど大きく変えることができるのかということに感動したことが、今の研究に繋がっています」

 この研究をさらに深めるため海外留学を志しますが、その道のりは険しいものでした。新婚旅行の際にフランスの研究所へ直談判しましたが、不採用に。次に連絡したアメリカのミシガン大学へは「今は無給でもよければ」と言われ、結婚したばかりで無給のまま渡米しました。

 生活は苦しく、一時は転職も考えたそうです。しかし、韓国語が話せた縁で世界トップレベルの研究者・ガブリエル博士を紹介してもらいます。英語で必死に自分の研究をアピールして採用を勝ち取りました。そこで研究に没頭して成果を挙げ、帰国後は筑波大学の助教になりました。

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 ただ、日本では、家庭の事情で単身赴任生活を送ることになってしまいます。「家族と一緒に暮らしたい」と悩んでいた時、再びガブリエル博士から渡米を誘われました。

 同僚の研究者などからは「(このタイミングで)アメリカに行ったらもう日本の大学には戻れないよ」と反対されましたが、金教授は家族を最優先に考え、再びアメリカへ渡る決断をします。

 アメリカに戻った金教授は、悪い菌を抑え込む特定の腸内細菌を発見します。「これを薬にしたい」と考えた金教授は、自ら企業のホームページを調べてメールを送り、採用を勝ち取りました。その後、慶應義塾大学の教授を経て、2024年に母校である北里大学に戻ってきました。金教授は、自らのキャリアを振り返り、こう語りました。

「キャリアは後からつながってくるものです。その時々で、自分にとって『何が大切か』を考えて決断していくことが大事だと思います」

それぞれの立場で考える博士×キャリア

 司会を務める深澤社長が「華々しい話だけでなく、泥臭い就職活動の話も聞いていきたいです」と切り出し、後半のトークセッションがスタートしました。

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 まず、深澤社長が質問したのは、気になる「就職先の見つけ方」です。

 伊藤さんは「当初は製薬会社や医療機器メーカーなどに応募して面接を受けていたのですが、なかなか通過しませんでした。困っていた時、『JREC-INポータル』という研究者向けの求人サイトがあることを知り、そこで『ちとせ研究所』を見つけました。新卒の学生も募集しているようなことが書いてあるのを見て、直接『履歴書を送るので面接していただけませんか』とメールを送ったのが始まりです」と振り返りました。

 この行動力に、深澤社長も「求人サイトには経験者向けや高いレベルの求人しか出していない企業でも、直接問い合わせてみると、実は新卒や若手向けの採用枠を持っていることがあります。みなさんも、伊藤さんの就職活動を参考にしてください」と話しました。

 続いて、渡邊さんは、「有機合成を学んだので、それを生かした研究ができる職に就きたいと考えており、製薬会社への就職をまずは考えていました。ただ、製薬会社の他に、農薬メーカーなどでも、少し分野が違うだけで(新しい化合物を設計・合成するという点では共通しており)、自分の研究技術が生かせることに気づいたんです」と語りました。志望業界の「幅」を広げたことが、自分に合った就職先を見つけることにつながったのです。

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学生からの質問などに答える金教授(左から2人目)

 大学の先生を目指す学生からは、「大学の先生になるには、学生を教育した経験は重視されるのでしょうか」との質問も出ました。

 アメリカの大学に在籍した経験がある金教授は、「大学にもよりますが、アメリカと比べると、日本の方が教育した経験は重視される傾向にあると思います」と分析。働く仕組みの違いについて「アメリカの場合は、自分で研究費を獲得してくれば、学生に教える義務を免除される仕組みになっています。その代わり、自分の給料も自分で稼がなければいけません。一方、日本で大学の先生になるには、学生に教えた経験も必要になってくると思います」と語りました。

  さらに金教授は、「プレゼンテーションをしたり、違う技術を持つ人と協力したり――。研究の世界では論文の業績も大事ですが、こうしたコミュニケーション能力が欠かせません」と話し、人と関わる力の大切さを強調しました。

 また、海外での博士号(PhD)の価値について、金教授はこう語ります。

 「海外では、博士号を持っているかどうかで歴然とした差があります。博士号を持っていない人が研究員として採用される場合は、まずは助手のような立場になることが多く、正研究員としては入社できません」

 博士課程で苦しい研究を粘り強く乗り越え、課題を解決する力を身につけた証が博士号なのです。「日本でも、博士号を持っている人がしっかりと評価される仕組みになってほしいと個人的には思います」

 この話を受けて、司会の深澤社長が「ちとせ研究所は博士の人材を積極的に採用している印象があります」と伊藤さんに尋ねました。

 伊藤さんは「博士人材の採用を特別に重視しているかはわかりませんが」と前置きをしつつ、「ちとせ研究所は、学生がよく使う一般的な就職サイトには求人を載せていないんです。ですから、うちの会社を自分から見つけてたどり着くという時点で、そうした人材が集まってきているのかもしれません」 と話しました。

 ただ、ちとせ研究所では、多様な人材が活躍しているようです。伊藤さんは、「大学院の修士課程を卒業してデータ解析のチームで一緒に頑張っている人もいますし、学部を卒業後に入社し、別の部署で活躍している人もいます。博士だから特別ということではなく、自然と博士の人が多くなっているという状況です」と話しました。

正解は一つではない

 トークセッションの終盤には、学生たちへ向けて、3人の先輩から力強いメッセージが送られました。

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 殺虫剤の製品化に向けた研究を続ける渡邊さんは、「自分が今やっている専門の研究をしっかりと突き詰めて、頑張ってください。そして、お世話になった先生や周りの人とのご縁を大事にしてください。就職先は探せばたくさん出てきます」とエールを送りました。

 研究室の解析環境を整備した行動力などを評価され、ちとせ研究所に入社した伊藤さんは「企業は『どんな研究をしてきたか』という専門知識だけでなく、意外なところを見てくれています。みなさんも、自分から面白そうなことに挑戦したり、身近な困りごとを解決してみたりと、自分から積極的に、さまざまな経験を積んでいってください」と語りました。

 金教授は「自分が一番行きたいところにキャリアを進められなかったり、家族の問題などで自分の歩みが止まってしまったり――。思い通りにいかないことはあるかと思います。でも、自分が頑張って動いた中で決まった縁のあるところで、まずは楽しんで仕事をやってみる。そうすることで、また新たな道に繋がっていくと思います。『ここがダメだったから自分はダメなんだ』と考えるのではなく、縁があった場所で頑張っていれば、自然に自分のキャリアが固まってくると思います」と呼びかけました。

 最後に、司会を務めた深澤社長がこう締めくくり、セミナーは幕を閉じました。

 「博士の学生のみなさんは、一人一人専門性が異なりますし、置かれている立場も、考えていることも違います。一律に『これが正解』という答えはないのです。(今日のセミナーのお話でもいろいろありましたが、)自分の中で『ここは参考になるな』という言葉を選んで、参考にしていただきたいです。そして、なかなか答えが見つからなかった時は、一人で抱え込まずに、ぜひ周りに頼ってください」

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