
北里大学の博士後期課程学生と、企業や研究機関で活躍する社会人が交流する「第4回北里研究者サミットDocTALK~社会接点創出交流会~」が8月26日、北里大学白金キャンパス(東京都港区)で開かれました。
サミット内では、企業が「どのような博士人材を求めているのか」や、博士人材に期待する役割などについて紹介するプレゼンテーションが行われ、北里大学の博士課程に所属する学生約50人が参加しました。
登壇した企業の担当者には、北里大学の卒業生や理系出身者も多く、参加した学生からは「博士課程で培われる論理的思考力などを評価する企業が多いことを知り、就職活動に対して前向きな気持ちになった」といった声が聞かれました。
今回は、その内容の一部をお届けします。(2回目/全2回)
【前回の記事はこちら】
ビジネス×博士は相性がいい 博士人材が企業と交流する「北里研究者サミットDocTALK」レポート
医薬品の製造販売を行う「塩野義製薬」は、新たな医薬品の創出に挑戦する研究開発型企業です。

担当者は、医薬品の研究開発職について「薬学部だけでなく、理学部や農学部など、多様な専門性を持った仲間たちがそれぞれの強みを持ち寄って活躍しています。最近では、AI(人工知能)やデジタル技術を活用した創薬にも力を入れています」と明かします。
求められる人物像については、「努力して知識やスキルを磨きながら、困難な課題にも積極的に挑戦してやり遂げられる人」を挙げ、「薬の『創薬』から、『育薬』まで幅広く貢献できるのがこの仕事の面白さです」と語りました。
医薬事業、ヘルスケア部門、グリーンエネルギー部門、ホテル事業――。カエルのマスコットキャラクターでおなじみの「興和」は、様々な事業を展開していることから、医薬品研究職や開発職、品質管理職、営業職など、例年幅広い職種を採用しています。

医薬品の研究職のやりがいについて、担当者は「薬の候補となる成分を自分で探し出すところから、それを実際の形にして世に送り出す最終段階までのプロセスに、深く関わることができます」と話しました。
また、マスクやカイロなど、消費者が店頭で購入できるおなじみのヘルスケア製品の開発にも取り組むことができるといい、「自分の研究を主体的に行いたい人、大きな裁量を持って仕事をしたい人には、ぴったりの環境だと思います」と、博士人材が幅広く活躍できる企業風土をアピールしました。

明治アニマルヘルスは、「動物の健康を通じて、人々の生活を豊かにする」と掲げています。
例えば、日本で当たり前に食べられている「卵かけご飯」ですが、海外では卵を生で食べる習慣がない国がほとんどです。日本で生卵を安全に食べられるのは、動物用ワクチンのおかげなのです。
廣瀬和彦社長は、「日本は鶏にサルモネラ菌のワクチンを打っています。明治アニマルヘルスは、そのワクチンを製造しており、大きなシェアを占めています。鶏にワクチンを打つことで、卵の中にサルモネラ菌が入らず、安心して生卵が食べられるのです」と話します。
博士人材に求める能力については、「事業展開に必要な情報分析能力、論理的思考力を持つ人材を求めています」と語ります。また、「mRNAワクチンなど、新しい技術がどんどん出てくるので、仮説を更新していかなければならない。昨日の正解が今日の正解とは限らない」とも話し、博士人材に大きな期待を寄せました。
廣瀬社長は本学卒業生であり、過去にKitasatoParkでもお話を聞かせていただきました。
関連記事:ウイルスは頭がいい?北里大学で培われた自主性 明治アニマルヘルス・廣瀬社長に聞く(上)
日産化学は、農業化学品▽機能性材料▽ヘルスケア▽化学品――の4つの事業を柱に、景気の波に左右されない安定的な経営を行っています。

担当者は、若手のうちから挑戦できる社風を強調した上で、「化学の専門家、生物の専門家、安全性を評価する専門家が、互いに協力し合って研究を進めていきます」と話します。
また、同社は、希望の配属先で働くことができる「配属予約型採用」を実施しています。担当者は、会場に集まった博士課程の学生に向けて「長く大学院に在籍した経験をもとに、高度な専門性を生かして、様々なプロジェクトを牽引してほしい」とメッセージを送りました。
・住友化学株式会社
住友化学は、スマートフォンの画面に欠かせない偏光板の素材から、私たちの暮らしを守る殺虫剤の成分まで、身近で使われる化学製品を広く開発しています。

担当者は、医薬部門の役割について「私たちは新しい薬のタネを発見する『創薬』は行っていません。CDMO事業の枠組みの中で、医薬品の最終的な大量生産や、工場で安全に薬を形にするという製造事業をメインに取り組んでいます」と話します。
一つの医薬品を世に送り出すまでには、長い年月がかかります。「薬を完成させるのは一人の力では不可能です。多様な専門性を持ったたくさんの人たちと関わり合いながら進める、完全な『チーム戦』です」と語り、博士人材に対し、コミュニケーション能力と粘り強さを求める姿勢を示しました。
第一三共バイオテックは、人々の命を守るワクチンの開発と製造を担っています。同社のルーツは、北里柴三郎博士が設立した「北里研究所」にあります。かつては北里研究所のワクチン生産部門としての役割を担い、そこから第一三共との資本提携などを経て、現在の第一三共バイオテックへと歩みを進めてきました。

同社がミッションとして掲げているのは、「ワクチンの安定供給の達成とバイオ生産技術の向上」です。
担当者は「私たちの役割は、ワクチンの安定供給です。これまでは、ウイルス学や微生物学の専門家が多くワクチン製造に関わってきました。ただ、現在は新しい技術が生まれ、一つの専門性だけではワクチンが作れなくなりつつあります。異なる分野をつないで新しい薬を作り出し、それを『社会実装(実際の社会で使えるようにする)』していく力が求められています」と語りました。
国立研究開発法人・海洋研究開発機構では、地球の7割を占める「海」をはじめ、「地球」を舞台にスケールの大きな研究に取り組んでいます。担当者は「世界トップクラスの性能を持つ地球シミュレータ(スパコン)や、深海調査船を使って、気候変動のシミュレーションや薬品開発のための研究をしています」と語ります。

中でも、生命地球科学研究部門では「実際に深海に潜って、未知の微生物から新しい薬品のタネを探したり、『生命の起源』がどうなっているのかを解明したりしようとしています」(担当者)。
博士課程の学生に向けては、「自分が面白いと思えるテーマを自由に設定して研究に取り組めるポスドク(任期付きの研究職)を募集しています(※今年は募集終了)。若い人たちには、これまでの常識にとらわれない新しい研究をどんどん築いていってほしいです」と呼びかけました。
企業だけでなく、学校教育の現場でも今、博士人材の力が求められています。
小中高では、生徒が自ら疑問を見つけて調べる「探究活動」が必修化されましたが、その指導を担う人材が足りず、課題となっています。

2026年4月に北里大学の附属校となった北里大学附属順天中学校・高等学校の担当者は、「中高の教員は、自分の専門外の分野まで指導しなければならない場面が多々あります」と強調。一から課題を深掘りし、「研究がどのようなプロセスで進むのか」を熟知している博士人材が必要とされていると指摘します。
担当者は「自分が培ってきた研究活動を、中等教育の現場に生かす選択肢もあります。全国の学校が探究活動に力を入れている今、その最先端の科学の力を若者たちに伝える仕事に、ぜひ飛び込んできてほしいです」と訴えました。
こうした企業などからの説明を聞き、博士課程の学生は、どのように受け止めたのでしょうか。

獣医学系研究科・毒性学研究室のD1(博士後期課程1年)、深松美咲さんは、殺鼠剤が動物の体内でどのように移動し、血液の凝固にどんな影響を及ぼすのかを予測する数理モデルを構築しました。このモデルにより、限られた実験データから動物種ごとの薬剤反応の違いを推定できる可能性が示されており、動物実験の削減につながる活用が期待されるそうです。
「研究者サミットのために、(獣医学部のある)青森の十和田キャンパスからきました」と笑顔で語った深松さんは、「博士の1年目なので、視野を広く持ちたい。博士過程で培った力を生かして製薬メーカーに入社し、薬の開発に取り組みたいです」と話しました。

獣医学系研究科・獣医解剖学研究室のD1(博士後期課程1年)、中野友梨香さんは、これまでエネルギーを蓄える器官と考えられてきた脂肪組織が、妊娠を維持するうえで新たな役割を担う器官である可能性に着目し、その仕組みを研究しています。
「自分の研究テーマが企業の仕事内容と合わないと、企業への就職は難しいのかなと思っていました」と打ち明けた中野さん。「でも今回、企業側が博士ならではの『論理的に考える力(ロジカル思考)』そのものを評価してくれていると知り、前向きな気持ちになりました」と明るく感想を語ってくれました。

感染制御科学府・感染制御学研究室のD3(博士後期課程3年)、近藤正さんは、薬物耐性の分野で、BIVR株における耐性メカニズムの解明に取り組んでいます。近藤さんは、昨今の就職活動ではAIやシミュレーションといった“ドライな研究”が求められていると感じる一方で、自身は生きた菌を扱う、いわゆる“ウェットな研究”を専門としていることから、進路への悩みを抱えていたそうです。しかし、「今日のサミットに参加して、目の前の研究を突き詰めることが何より大切だと改めて気がつくことができました」と話していました。
研究者サミットでは、博士過程に所属する学生が研究発表する場も設けられ、企業担当者が熱心に聞き入っていました。

Meiji Seika ファルマの阿部邦威・先進治療研究室長は、博士人材への期待について、「学部から修士、博士へと進む中で、研究の基礎トレーニングを積んでいるため、企業の研究者として早くから活躍できると期待しています。新しい発見をするとはどういうことか、学生のうちにたくさん学んで研究のベースを作ってきていることが、企業に入ってからも大切になります」と話しました。
また、企業と博士が直接交流できる今回の研究者サミットについては、「企業にとっても優秀な博士人材の皆さんと交流できる貴重な機会です」と好感触であった様子。「こうした場でじっくりと対話することで、皆さんの研究にかける想いや個性を深く知ることができます。さらには、私たちのことも知っていただく、相互理解のための非常に価値のある機会だと考えています」と話しました。

北里大学海洋生命科学部のOBでもあるリバネスの小玉悠然・創業開発事業部長は、同社が博士号を持つ人材を積極的に採用している理由について「学生たちは、情報の蓄積・開示・分析・統合といったプロセスを日々繰り返しながら、世界初へ日々挑戦しています。この試行錯誤の連続は、弊社が協業するベンチャー企業や研究者、パートナー企業と共に新規事業を立ち上げる際に不可欠な思考サイクルそのものだからです。」と語りました。

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