
自分で考えることを求められた――。動物用のワクチンや医薬品を製造・販売するメーカー「明治アニマルヘルス」(熊本市北区)の廣瀬和彦社長は、北里大学獣医畜産学部(当時。現獣医学部)出身の獣医師です。40年ほど前、廣瀬社長が所属した獣医微生物学研究室は、学生の問答に先生が根気よく向き合い、研究に没頭できる場所でした。そこで身についた「自分で考える姿勢」は、社会に出てからも役立ったといいます。そこで培われた「自主性」とは――。(1回目/全3回)
――廣瀬社長は北里大学の獣医学部ご出身ですが、なぜ獣医学の道を選ばれたのでしょうか。
◆実は、最初から獣医を目指していたわけではないんです。若いころは、ドラマ「熱中時代」で俳優の水谷豊さんが演じていた北野広大先生に憧れ、小学校の理科の先生になるのが夢でした。高校時代は、国立の教育大学を志望していました。
担任の先生が生物学科出身で、私も生物が好きでした。「私立大学はどこを受けたらいいでしょうか?」と相談した時に、なぜか「獣医学部」を勧められたんです。今もちょっと理由がわからないんですけど(笑)、先生になるためのステップにもなると思い、獣医学部を受けることにしました。
北里大学を選んだのは、社会科の授業で学祖である北里柴三郎先生の近代医学における業績を学び、そのお名前が頭にあったからでした。

――北里大学では、どのようなことを学びましたか?
◆今の自分を作ったのは感染症を学ぶ獣医微生物学研究室での教えでした。先生方は研究テーマを渡してくれるだけで、あとは「自分で考えなさい」という姿勢でした。
なんでこの病気が問題なのか――。自分で考えることを絶えず求められた研究室でした。当時の教授も、准教授も、講師も、先生方がそろって学生との問答に夜遅くまで付き合ってくださいました。今で言う「コーチング」のようなものでしょうか。
先生方と議論しつつ、研究や論文執筆を進めました。今思うとかなり稚拙なことを相談したり、逆に「俺の方が研究について分かっているんだ」くらいの強気な態度で先生に臨んだり――。先生方、よく相手にしてくれたなと思います(笑)。
でもそこで、自分で考えて研究を前に進めることを徹底的に覚えました。それが体に染み付いて、社会に出ても役に立っています。
40年近く前、大学の附属牧場へ向かう車に乗っていた時のことです。ヒーターが全く効かず、寒くてしょうがないので、途中で温かい缶ジュースを買って股に挟んで暖を取りながら、意識が寒さにいかないように先生と研究室の学生で延々としゃべり続けていたんです。
その時、ある学生が「ウイルスって頭がいいんですか?」と、伝染病学の教授に質問をしたんですね。そうしたら先生はすぐに「ウイルスは頭がいいよ」と答えました。

――ウイルスが「頭がいい」とは、どういう意味だったのでしょうか。
◆先生は「ウイルスは動物の細胞を使って体の中で増える。もしいつまでも病原性を強くして宿主(しゅくしゅ)(寄生する生物)をすべて殺してしまったら、自分たちが増える場所がなくなり、自分たちも死ぬことになる。だからウイルスは、徐々に病原性を弱くして社会の中に溶け込む。それがウイルスの特性だよ」と教えてくださいました。
当時は「本当ですか?」と疑いながら聞いていましたが、2020年に新型コロナウイルスが流行した時、この言葉を思い出したんです。当時、先生は「パンデミックが発生した際には2、3年かけてウイルスは人の生活に入り込んでいく」ともおっしゃっていましたが、実際にその通りになりました。

――北里大学を卒業した後は就職されたのですか?
◆地元・名古屋に本社を置き、医薬品事業を含む複数の事業を展開する「興和株式会社」に研究員として就職しました。人用の医薬品を開発する部門にいましたが、「やっぱり微生物を触りたい」という気持ちが強くなりました。
1年半ほどたったころ「明治製菓が微生物を扱える人材を探している」というお話をいただきまして、転職しました。動物用の検査センターに所属し、全国の農場から届くいろんな動物の検体と向き合い、菌を取っては薬の効き目を調べる日々が始まりました。
2010年には、家畜の伝染病、口(こう)蹄(てい)疫(えき)が宮崎県で発生し、牛と豚約30万頭が殺処分されました。当時、私も一般社団法人・日本養豚開業獣医師協会から派遣され、坊主頭にして宮崎県に行きました。結局、発生現場に行くことはできず、消毒薬メーカーの獣医師として、現地にて当時の農水副大臣をサポートする資料の作成や、畜産農家から相談を受ける電話窓口の対応に当たりました。電話口の向こうから届くのは、生産者のみなさんからの切実な叫びでした。
そうした家畜の病気に対し、きちんと効果が出せる薬や、発生しても被害を最小限に抑える薬を作りたい、と強く思いました。そうした研究に今、北里大学大村智記念研究所と一緒に取り組んでいます。
廣瀬 和彦(ひろせ かずひこ)
北里大学獣医畜産学部卒業。獣医師免許取得後、興和株式会社および明治製菓株式会社で研究開発に従事。
動物用医薬品分野で研究、販売支援、企画部門の責任者を歴任し、Meiji Seikaファルマ株式会社では事業本部長を務める。
現在、明治アニマルヘルス株式会社代表取締役社長。ワンヘルスの視点から感染症対策と健康向上に取り組む。社会とつながる
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