
特許権とは、新しい発明・技術を、独占的に利用できる権利のことです。特許庁への出願と審査を経て、発明者に与えられます。「知財の北里」を掲げる北里大学(北里研究所)では、知財・研究推進部が、特許権を含む知的財産(知財)に関する業務を担います。北里大学特任教授を務める弁理士の冨士良宏部長(右から2番目)、樋口昌敏次長(左から2番目)、吉澤佳奈主任(左)、武南真依さん(右)の4人に、部署の役割や、「強い特許」の取り方などについて、ひもといてもらいました。
■知財・研究推進部ってどんな部署?

編集部 知財・研究推進部はどんなお仕事をしていますか?
冨士 研究者や教職員の発明やアイディアについて相談を受け、特許を取るまで全面的にサポートをしています。
特許とは、発明を保護する制度です。新しい技術(発明)を見つけた人に、特許庁が、その発明を独占的に使える「特許権」を与えます。「誰も知らない新しい技術を生み出した」「世の中の進歩に貢献する」と認められた発明に対し、独占的に使える権利が与えられる仕組みです。私たちは北里大学の研究者や教職員が発明した技術を、社会に役立つような形で特許出願するお手伝いをしています。また、特許というアイディアを形にして、商品化するためには、企業との連携も必要です。そうしたパートナーを探すお手伝いもします。

こうした「知的財産」(知財)に関するセミナーを大学内で開く機会も多く、わかりやすく説明することを心がけていますが・・・・・・。そういった心がけの成果が今回の対談で出せたらいいなと思っていますが、緊張してしまって(笑)。
樋口 冨士さんは特許庁での経験が長く、スペシャリストとして2023年に北里大学に入職されました。

私は1994年入職の32年目ですけど、研究領域を主にした仕事はしてこなかった。事務職員のジョブローテーションの中で、4年前に新潟キャンパス(新潟県南魚沼市)の事務長から、ここ白金キャンパス(東京都港区)を拠点とする知財・研究推進部に異動になって、初めて知財の仕事を任されて。冨士さんは、私のような知財の初心者にも分かりやすく教えてくれます。
吉澤 私は2017年に入職しました。知財・研究推進部に来て2年目です。長く知財に関わりたいと思っています。私自身もそうですが、大学の事務職員の多くは文系で・・・・・・。研究分野の内容を理解できるように勉強しながら頑張っています。

樋口 大学をもう一回入りなおして勉強しなければならないくらい?
吉澤 はい、それくらいの気持ちで取り組んでいます。武南さんは理系ですが、どうですか?
武南 私は薬学部出身で、新卒2年目です。先生方はご自身の専門分野を長く深く研究されてきたので、私が大学で学んだ基礎知識だとなかなか理解するのは難しいです。法律や特許の知識と併せて、勉強を続けています。

樋口 2人は、知的財産管理技能検定(知財マネジメントスキルを測る国家試験)に短期間で合格するほど熱心です!
冨士 私は、特許庁で長く働いた経験を生かしたいと思い、北里大学に来ました。特許庁では、審査審判業務(発明などの産業財産権の付与に関する審査と、その審査結果に対する不服申立などを審理する業務)に加えて、産業財産権行政(特許権・実用新案権・意匠権・商標権の4つの産業財産権に関する制度を運用・管理する行政 )に関する仕事をしていました。20年近く前には、大学での知的財産の活用を促す「大学等支援室長」を務めました。「大学の知財を活性化させたい」という思いがずっとある中で、北里大学とご縁がありました。
大学の職員は、異動で部署や担当が変わることが多いです。知財に長年関わる私が、お役に立てるような仕事を大学でしたい、とずっと思っていました。

■研究者が約1500人! 知財の発掘から「事業化」の流れとは?
樋口 知財・研究推進部は、北里大学の法人本部に属していて、白金キャンパス(東京都港区)のプラチナタワー13階にあります。職員は6人で、一部業務を外部の弁理士などに委託をしています。

北里大学では約1500人の研究者が、さまざまな研究をしています。私たちは、研究者や教職員の発明を独占的に利用できるように、特許出願して、それを権利化するのです。研究成果を足がかりに、ベンチャー企業を立ち上げる先生もいます。そのためには、学内で行われている研究を知り、「いいもの」を探し当てることも必要です。
冨士 知財の発掘から事業化の流れについてはこちらにまとめています。

北里大学では、「基礎研究」(自然現象や原理の根本的な理解や、新しい知識の発見を目指すこと)はもちろんのこと、病院もあるため、医療現場に根付いた研究や発明も行われています。先生方は、それを論文にして発表することが最大のお仕事です。
ただ、発明などを形にして世の中に送り出したり、企業と連携して商品化したり、こうした知財を権利として守ったり――。そこまで意識が及ばない先生もいます。
知財に関する知識がなく、研究を、特許の出願手続き前に発表してしまうと、不都合が起きます。

編集部 どんなことが起きるんですか?
冨士 特許を取る前に研究を発表すると、発明が世の中に知られてしまいます。そうすると、その研究成果は、広く知られている――つまり、みんなの「共有財産」とみなされて、保護に値しないと判断されてしまい、発明者であっても、特許の取得が難しくなります。
編集部 知らなかったです。油断禁物ですね。
冨士 ですから、私たちは「特許出願後に論文発表する、という順序をきちんと守ってほしい」と口を酸っぱくしてお伝えしています。
発明が生まれたところから、そのアイディアを保護して企業と一緒になって製品化し、活用していくところまでサポートする――。これが、私たちの役割です。
編集部 幅広いですね。
冨士 こんなふうに発明は、「先に論文発表したら特許取れなくなってしまう」ということが意外と知られていないです。仕組みを分かっていないと、先生方は悪気なく、先に発表してしまうこともあります。そういう事故が起きないよう、研究者も職員も学生も参加できる知財の入門講座を学内で開いています。

■研究を通じて社会貢献 「強い特許」の取り方
樋口 北里大学の建学の精神の一つに「叡智と実践」があります。これは、「学んで得た知識と技術を実践の場に活かし社会に貢献する」こと。私たちが取組んでいる研究成果の社会実装を通じた社会貢献は、学祖・北里柴三郎先生の理念でもあります。

「知財の北里」を確立するため、2020年4月1日には「北里研究所知的財産ポリシー」(知財ポリシー)が制定されました。「知財の北里を目指す」「特許等知的財産の出願を目的ではなく、事業化の手段として捉える」「社会への貢献や事業可能性を重視し、あえて特許出願しない方策も含めて戦略的な対応に努める」などと明記しました。北里大学は、304件の特許を保有しています(2023年度末)。知財ポリシーを実現するための組織作りも進んでいます。

編集部 研究成果を社会で生かすためには、どんな特許を取ればいいのですか?
樋口 「強い特許」を取ることが大切です。実際に製品化されたときに、他社が真似できないような特許ですね。
冨士 たとえば「新しい化合物を作りました」「これを薬にしたいです」という場面があったとします。研究者の先生方は、実際に製造した化合物だけの特許を取ろうとすることが多いですが、それだと権利の範囲がすごく狭くなってしまいます。
編集部 「狭い」というのは、どういうことですか?
冨士 化合物は、基本の形からちょっと構造を変えても似たような性質を持つことが多いんです。だから、特許の範囲が製造した化合物だけだと、他の人が少しだけ変えたものを作ってしまう可能性がある。そうなると、特許の「すき間」を突かれて、他社がビジネスに参入してくることもあるんです。逆に言うと、「こういった類似の化合物についても、製造可能だし、自分が考えていた発明の範囲ですよ」と主張することで、他社が参入しにくい、より広い範囲の権利を取得することができます。これが「強い」特許です。
吉澤 ちょっと変えただけで似たようなものができてしまうから、さまざまな可能性を考えて、広い視点で特許を考えないといけないんですよね。

冨士 そうなんです。だから私たちは、「この範囲だけだと狭すぎますよ」「もう少し広げて特許を取りましょう」と先生方にアドバイスしています。
また、製造方法が新しくても、そこでできた「もの」が素晴らしい場合は、「もの」で特許を取った方が、より広く知財が守れます。製造方法の特許って、誰かがその方法を使っているかどうかを証明するのが難しいんですよ。
編集部 確かに、誰かにこっそりマネされて作られても、気づきにくいですね。
冨士 だから、できた「もの」が新しくて価値があるなら、そちらでしっかり特許を取る方が安全です。研究者の先生方は、こうした「守り方」の視点はなかなか持ちにくいんですよね。
樋口 冨士さんが知財・研究推進部に来てくれたことで、そうした視点で特許を考えられるようになったのは、大きな変化だと思っています。

次回(下)では、
・社会を変え、北里大学に莫大な収入をもたらした「知財」(知的財産)の詳細
・特許を取るために、研究者に必ず守ってほしいこと
などをお伝えします。
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