「ワンヘルス」の起点としての北里大学  明治アニマルヘルス・廣瀬社長×北里大学・砂塚学長対談(中)

 動物の健康を通じて、人々の生活を豊かに――。明治アニマルヘルス(熊本市北区)の始まりは、明治製菓(現・Meiji Seika ファルマ)が戦後1946年、薬が不足する中でシラップの瓶を流用して始めたアオカビの培養にさかのぼります。その事業こそ当時貴重だった抗生物質「ペニシリン」の製造でした。もうひとつの始まりとなる化血研(現・KMバイオロジクス)も戦後の衛生環境改善と感染症対策を目的に設立され、犬用狂犬病ワクチンの開発により国内狂犬病の清浄化に大きく貢献しています。そうした二つの感染症に対する事業を受け継ぎ、2022年に動物用医薬品の製造・販売メーカーとして独立。現在は日本の動物医療を支える存在です。明治アニマルヘルスの廣瀬和彦・代表取締役社長は、北里大学の卒業生。人と動物、環境の健康を一体的に守る理念「ワンヘルス(One Health)」(以下ワンヘルス)について、北里大学の砂塚敏明学長と語り合いました。(2回目/全3回)

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ウイルスは頭がいい? 北里大学で培われた自主性 明治アニマルヘルス・廣瀬社長に聞く(上)

 廣瀬社長  手に付いても見えない細菌などの微生物に対して、どう立ち向かっていくか――。私が学生時代、家畜の感染症と免疫を学ぶ研究室を選んだのは、「目に見えないものが人や動物を殺す恐ろしさ」を探求したかったからです。

 砂塚学長 地球上では、数え切れないほどの微生物が生まれています。微生物が、ある意味で世界をコントロールしている感じもありますよね。人間は、いつも微生物とけんかをしている必要はないけれど、微生物が人間に害を及ぼす場合には、対処しなきゃいけない。微生物も自分が生き残ることを第一にしています。そこに人間がうまく対応して扱っていけばいい。

 廣瀬社長 「見えないもの」への意識は今も染み付いていて、手に付いたであろう細菌やウイルスがドアノブなどを介して他の家族に知らないうちに受け渡されて、広がっていく話をしますので、家族からちょっと面倒に思われています(笑)。新型コロナウイルス禍の時や、ご近所さんがノロウイルスに感染してしまった際に、感染を広げないための対策を伝えたこともあります。

 一方で、乳酸菌のように、人間に良い働きをする微生物もあります。北里大学では、微生物の恐ろしさと素晴らしさを学びました。

 また、経営者の立場になって改めて感じるのは、北里大学というのは「ワンヘルスの起点」になれる学校だということです。

 

――「ワンヘルス」とは、「人の健康」「動物の健康」「環境の健康」を一つの健康と捉え、一体的に守っていくという考え方ですね。「ワンヘルスの起点」とは、どのようなことでしょう。

 廣瀬社長 獣医学部の動物資源科学科では、食の安全に関わる人たちを育成していますよね。海洋生命科学部にも、養殖などの技術を教えている学科がある。食べることを介して、感染症が広がっていくことは少なくないんです。食料を作る側の人たちと、病気を抑える・治す側である医学、獣医学、薬学などの人たちが同じ大学で学んでいることは大きな意義があると思います。

 砂塚学長 北里大学は、生命科学の総合大学です。医学部、薬学部、医療衛生学部、看護学部、健康科学部などの人間の医療に関わる学部はもちろん、理学部、未来工学部、そして獣医学部、海洋生命科学部まである。これだけの規模を持つ大学は珍しいです。

 学祖・北里柴三郎先生も「医療だけでなく、農業などを含めて微生物を応用して社会に貢献する」とおっしゃっていました。そして、人間の病気を治すことだけではなく食や環境をトータルで守ること。これこそが、今求められている「ワンヘルス」のあり方です。

 また、医学と獣医学の見えない壁のようなものが、かつてはあったようにも思います。でも、北里大学では医学部と獣医学部の連携が始まり、人間と動物の感染症を一緒に学べるようになりました。人獣共通の感染症もあり、二つの学びはつながっていますからね。

――具体的に医学部と獣医学部では、どのような連携が始まっているのでしょうか。

 砂塚学長 医療と獣医療における薬剤耐性(抗菌剤の不適正使用により、薬剤に対して細菌が耐性化し、抗菌剤が効かなくなること)が、どう関係があるのか――。世界的な問題になっている耐性菌について新しい角度からアプローチすることで新たな知見が得られるのではないかと着眼し、医学と獣医学双方のデータを集めて調べる取り組みが始まりました。データサイエンスを学ぶ未来工学部とも連携しています。

――新たな知見とは、どのようなことでしょう

 廣瀬社長 例えば、同じ病気の治療のために同じ薬を猫と牛に使った場合でも、「猫では薬が効かなくなる細菌(薬剤耐性菌)が生じやすい」といった結果が得られるかもしれません。そうした違いが分かれば、薬が効かなくなる細菌を増やさないために、動物ごとに薬の量だけでなく、薬の種類そのものを見直す必要があることも見えてくると考えています。

 ただ、それを裏付けるデータがまだありません。ですから、これからデータを多く集めて解析することによって、それぞれの薬に対する、それぞれの動物における薬剤耐性化の違いを、「見える化」していきたいと考えています。データによって解析をすることで、より適正な薬の使い方が見えてくると思います。

――社会の役に立つ研究ですね。

 砂塚学長 「社会に役立つものを届ける」という点では、北里大学は今、数字でも成果が表れています。最新の「大学ファクトブック2026」によると、北里大学は「知的財産権等収入の総額」が、私立大学では3位です。これは、出口を見据えた研究を大切にしてきた結果の一つととらえています。

 教育面でも、今年の獣医師国家試験の合格率は92.7%で全国1位でした。医師、薬剤師、看護師などの国家試験合格率も全国平均を大きく上回っています。こうした手厚い環境が、北里大学の強みです。

廣瀬 和彦(ひろせ かずひこ)
北里大学獣医畜産学部卒業。獣医師免許取得後、興和株式会社および明治製菓株式会社で研究開発に従事。
動物用医薬品分野で研究、販売支援、企画部門の責任者を歴任し、Meiji Seikaファルマ株式会社では事業本部長を務める。
現在、明治アニマルヘルス株式会社代表取締役社長。ワンヘルスの視点から感染症対策と健康向上に取り組む。

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