
腎機能が低下し、人工腎臓などを用いて血液中の老廃物・水分を除去する「透析治療」を受ける患者は、国内に約34万人います。その多くは週3回の通院治療が必要で、就労や日常生活が制限されているのが現状です。こうした切実な社会課題に対し、企業・大学・医療が一体となって挑む「産学医」の連携が始まっています。(3回目/全3回)
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透析医療 在宅で自由に ロッテが北里大学発スタートアップを支援 玉塚社長×ペク氏 対談
ロッテが出資 北里発スタートアップ「水を使わない在宅透析」実用化に向けて シンポジウムレポート(上)
企業・大学・医療(産学医)の専門家が集まり、在宅で行う血液透析が変える「少し先の未来」を議論するシンポジウム「在宅血液透析でQOL(生活の質)改革に挑む、産学医の新領域」(ロッテHD、北里大学共催)が3月9日、同大白金キャンパス(東京都港区)で開かれました。
シンポジウムを開いたロッテホールディングス(HD)は2022年、バイオ医薬品の開発製造受託(CDMO)を担うロッテバイオロジクスを設立しました。2024年には、ヘルスケア・バイオ領域に特化して投資を行うコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を立ち上げるなど、医薬分野での事業拡大を加速させています。
シンポジウムでは、同社のCVCが投資する北里大学発のスタートアップ「フィジオロガス・テクノロジーズ」が、現在開発を進めている水を使わない在宅透析装置の研究成果と、実用化を目指している装置の概要を初公開しました。
今回の記事では、シンポジウム後半の様子をお届けします。
シンポジウムでは、北里大学発のスタートアップ「フィジオロガス・テクノロジーズ」取締役で、同大医療衛生学部の小久保謙一准教授が、現在開発を進めている在宅血液透析の装置について語りました。

人工腎臓や人工心肺などについて研究を続けてきた小久保准教授は、現在では一般的となっている医療施設における透析治療が患者に強いる過酷な現状について、次のように訴えました。
「透析患者は、週に3回しかおしっこをしない状態です。そのため、治療のない間にたまった2〜3キロもの水分や毒素を、わずか4時間の通院治療で一気に抜かなければなりません。これは体への負担が大きく、治療後はがっくりと体力を消耗してしまいます。移動時間を含めればほぼ一日を治療に費やすことになり、働きながら治療を続けるのは難しい状況です」
こうした課題に対し、在宅でできる血液透析であれば、夕食後に家族と会話を楽しみながら数時間かけて治療できる上、頻繁に行うことで体への負担も軽減されるといいます。また、生活の質の向上だけでなく、医療施設で行う透析に比べて生命予後(生存率)が高いというデータもあります。
では、なぜ日本では在宅透析が普及しないのでしょうか。その背景について、小久保准教授は「(在宅透析患者は)医療従事者が操作することを前提とした、医療施設用の装置を自宅で使っています。そのため、高度な操作技術が必要となります。また、大量の水を使うため、複雑な給排水工事を自宅で行うことになります」と説明。その上で「アメリカでは在宅専用の透析装置が開発され、在宅透析患者数が増えています」と語りました。
こうした課題を踏まえ、フィジオロガス・テクノロジーズは新しい透析装置を開発し、シンポジウムで発表しました。

「尿毒素やカリウムを、尿から吸着・除去するフィルターを使うことで給排水が不要になりましたし、体にも負担が少なく、電源があればどこでも使えるようになります。装置が小型で操作も簡単です。メンテナンス時も、車で例えるならば、車検の時に代車と交換できるような仕組みを目指しています」
続いて、同社の宮脇一嘉代表が、産学医連携による事業展開のビジョンについて述べました。

「私は、医療はビジネスで解決すべき社会課題と捉えています。医療機器開発の現場は、理想だけでは進みません。経営者として直面するのは、莫大な開発コストと、ゼロリスクを求める高いハードル、そして『時間の壁』です。一般的なベンチャーキャピタルには投資期限があり、短期的な成果が求められます。しかし、人の命に関わる医療機器の開発には、長い年月が必要です」
「ロッテHDは、『Lifetime Value Creator(ライフタイム・バリュー・クリエイター)』というグループビジョンの下、中長期的な視点で私たちの挑戦を支えていただけると感じております」
宮脇代表は、「就労できる年齢層の患者のうち、日本では約50%、アメリカでは約75%の患者が完全失業者です。在宅血液透析になると、通院しないで、好きな時間に治療できるようになります。血液透析が、自宅で簡単に受けられる装置があれば、多くの患者が社会復帰できます。患者のQOLが上がり、患者が社会に貢献できる仕組みを作りたいです」と意欲を語りました。
シンポジウムの最後には、ロッテHDでバイオ事業責任者としてCVCを担当しているペク・ジュン氏をモデレーターに、日本在宅血液透析学会理事長の小川教授、小久保准教授、宮脇代表によるパネルディスカッションが行われました。

まず、ペク氏が「1940年代に始まった透析医療は、今も大きな仕組みが変わっていません。その中でイノベーションを起こしているみなさんと、在宅血液透析について深掘りしていきたい」と趣旨を説明。
フィジオロガス・テクノロジーズを小久保准教授と一緒に立ち上げた宮脇代表は、事業の原点にある思いを次のように語りました。
「透析医療の現状を知った際、これほど大きな課題があり、多くの人が長年苦しんでいるのに、『変わっていない』ことに衝撃を受けました。小久保准教授が開発した透析治療に関する技術があれば、世の中が変わると確信し、協力したいと思いました」
これを受け、小久保准教授は「在宅透析治療を実現する上で課題となってきたのは、大量の水が必要なことでした。私たちは、尿の中にある尿素(タンパク質の代謝物)を効率よく吸着できる素材(吸着剤)を開発することで、水のいらない透析を実現することができました」と話しました。
医療現場で患者に寄り添い続けてきた小川教授は、埼玉医科大学総合医療センターで在宅透析ができるようになった経緯について、「ある透析患者さんから『自宅で子育てをしたい。在宅でできる透析治療を考えてほしい』と言われたことがきっかけです。自宅で家族とテレビを見ながら透析ができるようになり、『やってよかった』と言ってくださる患者さんがほとんどです」と語りました。
さらに、普及に向けた課題について議論が及ぶと、小久保准教授は「機器の実用化に向けて、PMDA(医薬品医療機器総合機構)などの機関から承認を得ることも不可欠です。一方で、現在の透析装置には、遠隔医療やモニタリング技術が十分に実装されていません。病院とリアルタイムで(患者の血圧などの)データを共有できる仕組みなどを通じて、自宅でも安全に治療が受けられるようにしたい。患者さんが安心して自宅で治療できる体制ができれば、普及につながると考えています」と述べ、「これからは薬を飲むのと同じように、自宅で、当たり前に在宅透析治療を受けられる時代を作りたい」と意欲を示しました。

また、スタートアップを支える資本のあり方について、宮脇代表は「医療機器の開発には長い年月がかかります。大企業の投資部門からは、『自社事業とのシナジー(相乗効果)がない』と出資を断られることがよくあります。そのため、日本の医療に関する技術や、スタートアップが海外へ流出しています」と指摘。その上で、「フィジオロガス・テクノロジーズがロッテHDにサポートしていただけたことは、とてもハッピーなことです。こうした支援を受け、私たちは、日本で成長していきたいと思います」と感謝の言葉を述べました。
ロッテHDのペク氏は「中長期的な戦略に基づいて、しっかりサポートをしていきたい。CVCなので利益も大切だが、ロッテグループの製造技術などを注ぎ込み、社会に必要な技術を開発して世の中に送り出したい」と強調。「産学医が同じ志を持って手を取り合ってこそ、医療のパラダイムシフトが起きることを、今日の議論で実感しました。ロッテHDとしても、情熱あるスタートアップや大学の研究を全力でサポートし続けます」と約束し、シンポジウムは幕を閉じました。

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