
質を守りながら、健やかに働き続けられる医療現場へ――。日本消化器外科学会の理事を務める、北里大学医学部の比企直樹教授(上部消化管外科)は、外科医の働く環境を変えてきました。厚生労働省も、高難度の手術に対して診療報酬の加算を打ち出すなど、国を挙げての改革もはじまっています。その最前線である北里大学病院では、「チーム制」を導入。人材が育ち、支え合える医療体制を作りました。
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医療機関の「集約化」へ 消化器外科医の給料を上げる
高難度の手術を手がける消化器外科医の給料を上げるための「加算」(診療報酬)を制度化する方針を、今年1月に厚労省が公表しました。これは、歴史的な改定です。医師の技術を正当に評価し、持続可能な働き方を下支えする制度設計となります。
2026年度からは、難易度の高いがん手術を大きな拠点病院に集め、質を高める方向にかじを切ります。医療機関が集約されれば、一部の病院には多くの医師が集まるようになるでしょう。その結果、患者さんと手術の件数も増えます。しかし、従来通りの人数ややり方で回そうとすれば、特定の医師に過度な負荷がかかってしまいます。

「特定の誰か」に頼りすぎない、チーム医療
それを防ぐため、私たち北里大学病院・消化器外科は2024年から「チーム制」と「シフト制」という仕組みをはじめました。
初めて患者さんと会う初診から、手術前の説明、手術、術後の管理、退院の説明、その後の外来フォロー――。これまでの外科医療は、一人の医師が一人の患者さんに必要な一連の医療をすべて担う「主治医制」が基本でした。しかし、これでは手術ができる医師ばかりが多忙になり、まだ経験の浅い医師は雑務に追われる、といった不均衡が生まれます。
そのため、まず特定の医師の名前がついた外来診療を廃止し、誰がいつ診察しても良い形に変えました。その結果、「今日は自分の外来があるから、難しい手術は担当できない」といった制限がなくなり、手術を中心に医療体制を組み立てられるようになりました。

「当たり前」をITと仕組みで変える
また、医師の仕事は、手術後の管理も重要です。患者が術後に熱を出せばその原因を突き止めますし、車のハンドルを細かく操作するように治療をコントロールしていきます。かつては、多くの医師が患者の術後管理のために、週末も病院にいるのが、よくある光景でした。
しかし、今は情報共有ツール(Microsoft Teams)を活用しています。画像や検査データを共有し、病院にいない医師でも、スマートフォンで状況を確認した上で「手術をしたほうがいいのでは」などと意見を伝えることができます。また、手術中も必要に応じて経過写真をチームに共有し、よりよい形で進めています。ボールは誰が拾っても良い状態です。チームみんなで患者を見守ることができ、安定感につながります。
また、以前は「スキン・トゥ・スキン」という言葉があり、皮膚を切るところから閉じるところまで一人の主治医がやり遂げるのが当然とされてきました。しかし今は、違います。「シフト制」を導入し、昼休みになれば手術の途中でも交代して食事に行きますし、午後に会議があれば別の医師が引き継ぎます。

人が育ち、支え合える医療体制を
以前、主治医制の時代に手術を経験された患者さんが最近、チーム制のもとで手術を受けました。その患者さんは「主治医が体調を崩して不在になる不安がない。話しやすい医師を選んで要望を伝えることもできる。チーム制の方が安心です」と話してくださいました。
ただ、チーム制を維持するためには、全員が高い技術を備えていなければなりません。手術の質を維持するための教育は重要です。上部消化管外科には現在8人ほど手術ができる医師がいますが、手術の技術を認められるまでに、20年はかかります。これからも人が育ち、支え合える体制を整えていきます。
消化器外科医は尊い仕事
また、僕は消化器外科学会の理事です。家族との時間を大切にしながら働ける環境を作ろうと、2023年に学会内で「ワーク・イン・ライフ委員会」を立ち上げ、委員長になりました。外科医の人手不足と長時間労働の改善を目指し、働き方改革(「チーム制」の導入や、適切な賃金・休日の確保など)や女性医師のキャリア支援、若手医師の育成に取り組む専門組織です。
2025年には「消化器外科医がいなくなる日? ~外科の危機から見える、私たちの医療の未来~」と題した市民公開講座を開きました。
消化器外科医がいなくなる日?~外科の危機から見える,私たちの医療の未来 ~
「昨年、全国で消化器外科を志望する新人医師が増えた」という話も聞いています。働く環境の変化を、若い医師が感じ取ってくれているのだと思います。消化器外科医は、患者さんに心から感謝される、尊い、幸せな仕事です。消化器外科医という職業をなくさないためにも、努力すれば報われる――。そんな環境を作っていきます。

比企 直樹(ひき なおき)
1962年生まれ。北里大学医学部卒業。消化器外科医として数多くの手術を手がけ、特に腹腔鏡手術の分野をリードしてきました。国内外での研究・教育にも力を注ぎ、若手医師の育成にも情熱を注いでいます。「患者さんにやさしい医療」をモットーに、新しい手術法の開発と次世代の外科医づくりに挑戦し続けています。社会とつながる
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