「光る君へ」「どうする家康」「水滸伝」 緒方薬剤師に聞くドラマ監修の舞台裏(中)

 北里大学北里研究所病院漢方鍼灸治療センター(東京都港区)の緒方千秋薬剤師は、「光る君へ」や「どうする家康」、「水滸伝」など多くのドラマで、手当てや薬が登場する医療シーンを監修をしてきました。なぜ、医療シーンを作り上げる際に、漢方薬剤師の視点が必要なのでしょうか? その舞台裏と、「気のせい」とされてしまう心身の変化にも寄り添える漢方の強みについて聞きました。(2回目/全3回)

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「お見合い就職」からはじまった漢方の道 緒方先生が語る、日本における薬剤師免許の強み(上)

 ──緒方先生は、どんなドラマに携わっていますか?

 ◆今年2月から放映・配信されている連続ドラマ(WOWOW × Lemino)「水滸伝(すいこでん)」にも関わりました。

 私が主に担当したのは、獄中の劣悪な環境で治療するシーンです。真っ暗闇の中で、牢屋の近くの森から採ってきた薬草を使い、手当てをするシーンなどを監修しました。医師役は、金田哲さんでした。

 ──大河ドラマなどでも、所作の一つひとつに専門的な知識が求められるのですね。

 ◆NHK大河ドラマ「光る君へ」では、平安時代に疫病が流行する中で、薬を使って熱を冷ますなど、手当てをするシーンの指導を行いました。平安時代は陰陽師や占いのイメージが強いと思いますが、実は医療も非常に進んでいました。現存する最古の医書「医心方(いしんほう)」もこの時代のものです。著者の丹波康頼は、俳優の丹波哲郎さんの先祖と言われています。

 また、NHK大河ドラマ「どうする家康」にも関わりました。徳川家康は薬オタクとして有名です。毒を恐れて自分の薬は自分で調合する、人には鍼を打たせない──。徹底した人だったと伝えられています。徳川家康役の松本潤さんが生薬をすりつぶすために「薬研(やげん)」を使うシーンでは、付き添って使い方を教えました。薬研は、漢方鍼灸治療センターにある東洋医学資料展示室にもありますので、興味のある方はぜひ見に来てほしいですね。

 こうした時代劇の医療シーンは、漢方が主役になります。明治時代に医師免許制度ができるまでは、日本の医療は「漢方」(中国から伝わった伝統医学が、日本人の体質や日本の風土に合わせて独自に発展したもの)だったからです。

 ──西洋医学と漢方の違いを、改めて教えてください。

 ◆西洋医学は検査機器などを用いて、局所的、分析的に病を診ます。それに対し漢方は、患者さんの訴えを大切にし、心も含めて全身的、経験的に人を診ます。例えば「冷え」には、性質の「冷え性」と、症状の「冷え症」がありますが、漢方では後者の「冷え症」を使用します。(体の表面温度を測る)サーモグラフィーで異常がなくても、本人が「冷えている」と感じていれば、漢方では治療の対象になる。そこが漢方のいいところです。

 西洋医学では「気のせい」と言われてしまうようなことも、漢方では「気」を大事にします。「病は気から」というように、心が病んでいる状態も病気だと考えるからです。現代社会では、心の不調が体に現れている人が多いです。例えば朝、学校に行きたくないからお腹が痛くなる。それは「気のせい」ではなく、本当に痛いのだと思います。

 心と体はつながっています。「心身一如(しんしんいちにょ)」という言葉がありますが、漢方は患部だけを診るのではなく、心を含めた全身を診る医学です。 AIが医療に対応していく時代になっても、漢方で「全身を診る」というアプローチが、現代社会に必要なのではないでしょうか。

 ──検査で異常が出ない悩みにも、寄り添ってくださるのですね。

 こうした漢方的な視点は、新型コロナウイルス禍においても大切にされていました。匂いがしない、眠れない──。コロナ後遺症(新型コロナウイルス感染後の体調不良)の不定愁訴にも、漢方は対応しています。

 風邪の時に飲む葛根湯の作り方が載っている中国・漢代の医学書「傷寒論」は、「寒に傷つけられたことによって発病した症状を治療すること」(傷寒=急性熱病)に対する処方が書かれた本です。漢方はもともとウイルスやインフルエンザ、感染症と戦うために発展してきた医学です。

 また、新型コロナウイルス後遺症の「匂いが戻らない」という悩みに対しては、生薬の強い香りを嗅いでいただく「嗅覚トレーニング」を行いました。飲む治療だけでなく、生薬そのものを活用した取り組みです。

 ──ほかにも、生活に根付いた漢方らしいものはありますか? 

 ◆お正月に飲む「お屠蘇(とそ)」は諸説ありますが、平安時代に遣唐使によって日本に伝えられたといわれています。「悪いものを葬る」という意味を持つ疫病退治の文化です。独自の漢方素材が配合されており、風邪予防や健康維持を目的としています。

 平安時代の宮中でも取り入れられ、紀貫之も「土佐日記」にお屠蘇のことを書いています。中身は、みかんの皮、シナモン、サンザシ、山椒、小豆など、身近な素材で作れるんですよ。

 大晦日の夜に約200㎖の清酒かみりんに、ティーバッグに入れた身近な素材を浸します。元旦の朝、ティーバッグを取り出し、お雑煮やお節料理の前に、家族そろって年少者より順にいただきます。

 みりんなどのお酒に、素材を漬け込むことで、アルコールと糖分が成分を効率よく引き出してくれます。お正月の食べ過ぎ飲み過ぎによる胃の疲れや風邪予防に役立てる、先人の知恵です。

 また、紅茶やミルクティーに、このティーバッグを入れれば、チャイのようなスパイスティーになります。赤ワインと一緒に煮詰めて、ホットワインにするのもおすすめです。

 ──漢方の魅力を広く伝えようとされているのですね。

 ◆たまたま職場のポストに入っていた「パワーアップ塾」(東京都港区社会福祉協議会主催の地域福祉活動・ボランティア活動)の案内を読み、参加したところ、自分の専門知識を使って行うボランティア「プロボノ」という活動があることを知ったのです。

 漢方の知識を地域の皆さんにお伝えしたい、北里大学の広報に役立てたい──。こんな思いから、東京都港区の大型マンション自治会やサロン、高齢者の皆さんがいらっしゃる施設などで、地域の皆さんに、漢方の魅力を伝える機会も増えました。

 さまざまな場で、お屠蘇や身近な素材の話などをすることで、多くの方に漢方を身近に感じていただきたいと思っています。これからも北里大学(白金キャンパス)の近隣の方たちや、足を運んでくださる方たちの暮らしを支えていきたいです。

緒方千秋 (おがた ちあき) 
1965年山形県生まれ。北里大学卒業後、一般企業を経て、1989年、北里に戻り漢方の道に飛び込んだ。現在は、30年以上の臨床経験を活かし、サービス精神と人の役に立ちたい気持ちで、漢方の啓発活動に取り組んでいる。また、漢方とサウナ、化粧品、食品など異業種との関わりを模索中である。これからも北里大学の一員として、漢方を通じて、地域の皆さんの健康維持に関わっていきたい。 

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北里大学北里研究所病院漢方鍼灸治療センター
東京都港区白金5-9-1

漢方治療と伝統的手法による鍼灸治療を行う、自由診療(保険適用外)の診療部門。
漢方外来では、医師による脈診、舌診、腹診など、漢方医学の伝統的な方法に基づき、患者さんの体調を診断しています。漢方薬剤科では、生薬(漢方薬の原料)に精通した薬剤師が、処方箋に基づき、漢方薬(煎じ薬)を調剤しています。患者さんの細かな体質を考慮し、生薬を加減したオーダーメイドの漢方薬です。

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東洋医学資料展示室
東京都港区白金5-9-1

漢方の歴史を伝える資料を展示。
古医書、巻物、道具のほか、漢方の原料である「生薬」の標本もずらりと並ぶ。

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