
薬作りは、プラモデルの組み立てに似ている――。北里大学大村智記念研究所・生物有機化学研究室の講師・千成恒先生に、自然界の物質を人工的に一から作る研究「全合成」の奥深い世界について聞きました。研究者としての成長を阻む「コンフォートゾーン」をいかに脱するのか? 世界を見てきた千成先生が、これからの研究者に伝えたい思いを語ります。(3回目/全3回)
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──現在はどんな研究をされているのですか?
◆僕の専門は「全合成」という分野です。自然界にある天然の化合物を、人工的に一から作っていく研究です。
2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智特別栄誉教授は、土の中の微生物から新しい天然物を見つけてくるのがお仕事です。僕は、そうやって見つかったものを、「プラモデルを組み立てるように」人工的に作るのが仕事です。
──プラモデル、そのたとえはおもしろいですね。
◆まず「ゴール」があって、「こういう形にしたい」という完成図があるのです。たとえば、土の中から見つかった薬効のある「天然の化学物質」があるとして、それを目指して人工的に作るのが、僕の研究です。

そのための材料を探してきて、それをちょっとずつ組み立てていく。僕の研究では、その「組み立て方」が大切です。人工的な材料や、すでに知られている方法を使って、どういう手順で組み上げていくか──。
──天然物と同じものを、人工的に作るということですか?
◆「こういう天然物が(薬として)良さそうだから、人工的にいっぱい作りたい」という場合は、そうなります。自然界からその天然物がたくさんとれないときは、「量を作る」ことが目的になります。
でも、たとえば、(大村先生が見つけた)イベルメクチンのように、自然界からたくさんとれる場合は、それを人工的に大量に作る必要はないです。
──では、なぜ作るのでしょうか?
◆人工的に作る過程そのものにも意味があるからです。ゴールに向かって部品を組み立てていく途中で、「自然界にないもの」を経由することになります。
「自然が作った設計図」をヒントにしながら、「自然を超えたもの」を人間の手で生み出す──。この「途中段階の物質」が、実は元の天然物よりも強い薬効を持っているなど、お宝の可能性もあるのです。
また、天然物の「修飾」を目指すアプローチもあります。天然物をベースにして、副作用を少なくするとか、もっと効き目を強くするとか、そうやって磨き上げることもできます。

──こうした地道な作業の積み重ねが、大きな発見につながるのですね。北里大学の研究環境はいかがでしょうか?
◆大村先生をはじめ、先輩方が築き上げた、世界でも類を見ない「北里微生物資源ライブラリー」という財産があります。約40年にわたり集めた微生物と天然化合物の巨大なデータベースで、薬のタネになるかもしれない、貴重なカビや菌などが集められています。
北里大学には、大村先生という大きな存在がいらっしゃいますが、僕たち若手研究者も「自分たちの実力で世界に認められる成果を出したい」と強く思っています。
──具体的にはどのような研究アプローチを考えていますか?
◆たとえば、2024年にノーベル化学賞をとった「タンパク質の構造解析」のような新しいAI技術に注目しています。これを使うと、これまでブラックボックスだった「薬が体の中でどう効いているか」が分かるようになります。これまでとは違い、「この部分が、この形だから効く」と分かるようになるのです。
このようなすごい新発見があった分野をうまく応用すれば、さらに進んだ研究成果が見つかる可能性があります。新発見の周辺の研究は、未開拓なことが多いので、そこを研究することに価値があるのです。
アメリカの研究者は、新しい研究成果を取り入れるスピードが速いです。一方で、日本には、一つのテーマを深く掘り下げていく職人のような研究者が多いように思います。日本の「深掘りする力」を大切にしつつ、アメリカ留学で知った研究へのスピード感を取り入れ、世界の一流の中に割って入りたい。以前は、アメリカの製薬企業に就職することも考えていましたが、今は研究者として、世界に認められる論文を書き、いつかそれを応用して薬を創ることが目標です。
──最後に、これから北里大学を目指す人へのメッセージをお願いします。

◆有機合成研究はスポーツに似ています。体力もいるし、地味な作業の積み重ねも必要です。物質を混ぜ合わせたものをたくさん仕込んでいって、反応が終わったものをチェックして、それを今度は後処理して……の繰り返しなので。でも、その分、誰も見たことのない分子を自分の手で作れた時は感動します。苦労を多くする分、喜びも大きいです。
「コンフォートゾーン」という、慣れ親しんだ居心地のいい空間にとどまる限り、人間は成長しないと言われています。人間には「ホメオスタシス」という潜在的な心理作用があって、どうしても心地良い場所に戻ろうとしてしまう性質があるからです。
だからこそ、「コンフォートゾーン」は自分で破らないといけない。そこを破って到達するのが「ラーニングゾーン」です。新たな挑戦をしたときにこそ、成長の機会があります。それには不安やストレスがつきまといます。過度なものは良くないですが、適度なストレスは、自分が「コンフォートゾーン」を抜けるために必要だと思います。
だからこそ、多様性が大切なのだと思っています。同じ価値観の中だけにとどまらず、違う意見の人と一緒に学べる環境こそが、新たなイノベーションを生む……というのが、僕の個人的な意見です。
北里大学には、世界で通用する研究に挑戦できる環境があります。一緒に研究して、世界を目指しませんか?
──熱いお話をありがとうございました。

千成 恒(せんなり ごう)
1989年東京都中野区生まれ。北里大学卒。野球一筋15年の学生生活の後に大学院に進学。博士号取得後、カリフォルニア大学バークレー校に留学。現地でのスタッフを経て北里大学に赴任。専門は天然物化学、有機合成化学、創薬科学。いつかヒトを救う薬を創りたいモチベーションで研究を行っている。研究の森
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