
2024年度、救急車受入台数が過去最高を記録した北里大学メディカルセンター(以下KMC)。2022年度からV字回復を達成した要因、そして地域の医療体制を守る挑戦を続けるKMC救急科の取組について田村智副部長に聞きました。
◆2024年度、北里大学メディカルセンターの救急車受入台数が過去最高を記録したとのことですが、救急車受入台数向上のために具体的に取り組まれたことを紹介してください。
一言で言えば、「救急を断らない病院」へ本気で舵を切った、その覚悟の結果です。
以前は各診療科が交代で救急を担当しており、診療科の裁量によって患者さんを受け入れられないこともありました。そうした属人的な体制を見直し、2023年度からは救急科が全件を一括で受け止める仕組みに切り替えました。初療から入院調整まで救急科が担い、必要に応じて専門科へ橋渡しする。あわせて救急専用ベッドも確保し、迅速な入院につなげています。
また、救急の質を上げるために、RRT(院内迅速対応チーム)を医師も参加するチームに再編。以前は看護師のみで対応していましたが、医師の関与により精度と即応性が格段に向上し、病棟からの信頼も高まりました。

脳卒中診療においても、SCU(脳卒中ケアユニット)を整備し、埼玉ストロークネットワーク(SSN)に正式参加。tPA*1 や血栓回収が可能な病院として、地域の消防から優先的に搬送されるようになりました。
*1 tPA:主に急性期脳梗塞の治療に使われる血栓溶解療法
さらに、2024年度からは救急救命士を常勤職員として採用し、医師や看護師とのタスクシェアも進めています。心電図モニタや点滴ルートの確保、記録入力など、従来は医師・看護師が担っていた業務の一部を救急救命士が担うことで、医療のスピードと精度がともに向上しました。医師・看護師・救急救命士のチーム医療が、ようやく本格的に形になってきたという実感があります。
また毎月、管内の消防幹部をKMCにお招きし、搬送現場の課題をヒアリングしています。「なぜ受けられなかったのか」「どこで困ったか」といった声をもとに、体制改善を重ねてきました。こうした“地域の声を聴くこと”こそ、受け入れ件数を増やすだけでなく、「信頼される救急科」をつくる礎だと思っています。

◆2025年度の新たな取り組みとして、6月から「お迎え搬送」の本格稼働を開始したとのことですが、「お迎え搬送」とはどのようなものか、また「お迎え搬送」を行うことによってどのように地域に貢献できるのかを教えてください。
救急搬送といえば「患者が病院に運ばれてくる」のが一般的ですが、お迎え搬送はその逆で、“病院が地域へ出向いて患者を受け入れる”という新しい搬送のかたちです。この取り組みは、“行き場を失う患者さん”を救うだけでなく、地域の医療・介護従事者や消防隊員の「困りごと」や「声にならないSOS」に応える仕組みとして構想しました。
現場では、以下のような切実な声が日々上がっています。
「この患者さん、入院が必要なのはわかっているけれど、どこに連絡しても取ってもらえない」(地域開業医)
「救急車で搬送したものの、施設職員が付き添いで長時間拘束され、他の入所者対応が手薄になる」(介護施設職員)
「受け入れ先が見つからず、現場で30分以上待機しなければならない。次の119番に向かえずもどかしい」 (消防隊員)
そうした現場の逼迫に対し、私たちKMCが責任をもって迎えに行くことで、患者さん・医療者・介護職・救急隊員それぞれの「困りごと」を減らし、医療搬送のあり方そのものを再設計しました。

この「お迎え搬送」には、以下の3つの意義があります。
1. 医療連携の再構築──“KMCに相談すれば大丈夫”という安心感を
施設や診療所が、「困ったらKMCに頼れる」という選択肢を持てるようになったことは、搬送判断の心理的負担の軽減にもつながっています。地域の連携医療機関としての信頼構築にもつながっており、実際に相談件数も増えてきています。
2. “搬送困難”な患者のセーフティネット
高齢でADL*2 が著しく低下している方や、搬送手段の確保が難しい方、在宅や施設で急変した患者など、従来の救急搬送でも対応してきたものの、搬送調整に時間と労力がかかりがちだった層に対し、より確実で柔軟に対応できる選択肢となります。
*2 ADL:日常生活を送る上で最低限必要な動作のこと。高齢者や障害者の自立度を測る指標として用いられる。
3. 病院と地域の垣根を超えた医療提供
医師や救急救命士が現地で直接患者を評価し、そのまま搬送することで、紹介状だけでは伝わらない病状や臨床的判断のニュアンスを、病院チームに確実に引き継ぐことができます。私たちはこれを“医療の翻訳者”と位置づけています。単なる「人の移動」ではなく、医療情報・判断・意図を伝える搬送であることに、大きな価値があると思っています。
現在は北本市内限定で運用していますが、安全性や運用の確実性を見極めながら、鴻巣市や桶川市など周辺自治体へも順次拡大する構想があります。お迎え搬送は、行き場を失う患者のための道をつくる医療であり、同時に地域の医療者・介護者・救急隊員を孤立させない医療のインフラでもあります。KMCとして、地域全体の“安心のネット”となるよう、今後もこの取り組みを地に足をつけて広げていきたいと考えています。
次回はKMC救急科が地域に信頼され、頼られる救急医療体制になるためのチャレンジについて取り上げます。
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