
2024年度、救急車受入台数が過去最高を記録した北里大学メディカルセンター(以下KMC)。北本地区の救急医療体制の更なる充実に向けた取組をKMC救急科の田村智副部長に聞きました。
◆救急医療体制を更に強化するために取り組まれていることを教えてください。
私たちが目指すのは、「数をこなす救急」ではなく、地域に信頼され、頼られる救急医療体制です。受け入れ件数やスピードだけでなく、「ここに頼ればなんとかなる」と思ってもらえる存在になること。そのために、2025年度は大きな2つの挑戦に取り組んでいます。
1|地域とつくる、新しい救急車のかたち
ひとつは、救急車の更新に向けたクラウドファンディングの立ち上げです。現在KMCで稼働している救急車は、2003年導入の車両で、21年にわたり地域の命を運び続けてきた“仲間”のような存在です。しかし、車体の老朽化により、医療機器の積載や冷暖房の効き、移動中の安定性といった面で課題が生じてきました。
これを単なる「車の更新」として終わらせるのではなく、地域とともに未来をつくるプロジェクトにしたいという思いから、クラウドファンディングという形を選びました。

更新後の救急車には、リアルタイム映像伝送システム(Visual Talk)を搭載予定で、搬送中の患者の様子を病院側が映像で把握し、早期対応につなげることが可能になります。
また、非接触バイタル測定が可能なアプリケーションの導入も計画しており、タブレット端末のカメラで顔色の変化から呼吸数・脈拍などを計測することで、より安全で効率的な搬送を支える技術基盤を構築します。これは、未来工学部との共同研究として現在実証を進めているものです。
この救急車は、単なる「移動手段」ではありません。お迎え搬送や施設訪問など、“医療が地域へ出向く”場面での中核的インフラとして活躍するため、多くの命と現場をつなぐ“医療の架け橋”となります。
Readyforプロジェクトページ 目標金額:2,300万円 / 実施期間:2025年7月7日〜9月30日
2|「仕組みを整え、質を高める」ために
もうひとつの取り組みは、救急医療全体の「質の向上と持続可能性の再設計」です。KMCでは、2023年度に救急科の専従体制を立ち上げ、2024年度には搬送受入件数が急増しました。しかし、数が増えただけでは意味がありません。むしろ現在は、「診療の質と働き方の両立」が大きな課題となっています。そこで2025年度は、「仕組みを整え、質を高め、地域とともに」という目標を軸に、以下のような取り組みを推進しています。

• 救急医療の質を高める仕組みづくり
救急救命士や看護師とのタスクシェアを進めるとともに、消防や近隣医療機関のスタッフと連携したICLS(心肺蘇生)やISLS(脳卒中初期対応)といった研修会を定期的に開催し、地域全体での救急対応力の向上を図っています。
• 判断基準や診療フローの明確化
夜間や休日を含む安定的な救急受け入れを支えるため、診療フローや入院振り分け基準を明文化・共有し、個人の裁量に頼らない体制の構築を進めています。
• 医療DXの導入とチーム力の最適化
音声記録AI「SpeechER」や、搬送支援用の映像伝送システムなどを導入し、記録業務の効率化・情報共有の迅速化を図っています。これにより、限られた医療資源でも質を維持しながら持続可能な運用が可能になります。
救急医療は「断らない医療」であると同時に、「持ちこたえる医療」でもあります。
そのためには、熱意や根性に依存しない仕組みが必要です。私たちは、現場の負担を軽減しながらも地域に応えられる体制を整えることで、次の10年にふさわしい救急医療をつくっていきたいと思っています。
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