「バランスよく捉える」視点を育み 働く人の健康を導く 北里出身・丸井グループの産業医、小島玲子・取締役CWOに聞く②

 物事を、バランスよく捉える──。丸井グループの産業医として働く小島玲子・取締役上席執行役員 CWO(最高健康責任者/Chief Well-being Officer)は、北里大学大学院で2010年、「メールを使った認知行動療法的アプローチ」をテーマにした博士論文を書きました。当時の勤務先での実践をふまえた論文は、認知行動療法の第一人者である大野裕先生が絶賛し、世界的な学会でも紹介されました。ここからデジタルツールを介した認知行動療法が広まるなど、大きな社会的インパクトがありました。当時はうつ病患者の治療に使われていた心理療法を、「普通に働く」人たちにも役立つ知識に広げた方法とは?(2回目/全4回)

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「安心できるから、意見が言える」 「叡智と実践」を体現する北里での学び 北里出身・丸井グループの産業医、小島玲子・取締役CWOに聞く①

 ――北里大学大学院時代の恩師である田中克俊先生が、当時の小島さんを「穏やかながらも新しいことに粛々と取り組んで困難を乗り越えていく」と評されていました。小島さんの博士論文のテーマである「メールを使った認知行動療法的アプローチ」は、「当時は対面での精神療法が主流だった中、メールによる介入は画期的な試みだった」と伺っています。国内外の学会でも紹介されるほどの成果を上げたそうですね。

 ◆ありがとうございます。北里大学大学院で学ぶ中で出会ったのが、認知行動療法でした。認知行動療法は「物事をバランス良く捉え直し、自分の思考のクセを客観的に認識することで、より良い生活を送れるよう行動を変えていく」という考え方です。

 例えば、コップに半分の牛乳がある時に「もう半分しかない」と思うか、「半分もある」と思うか、ただ「半分あるね」とニュートラル(中立)に捉えるか……。認知行動療法は、無理にポジティブに変換するのではなく、「ニュートラルに見てみようよ」という考え方です。この考え方は不調に陥っている人だけでなく、働く人皆にとって有用だと思い、職場で応用してみたのです。

 ――メールでのやり取りで、社員一人ひとりを「ニュートラルな捉え方」に導いていくのですか?

 ◆社員約300人に対し、まず集合研修形式でワークショップを行なった後、メールで個別にワークシートを送り、メールで産業医とやり取りをしながら、数か月間にわたって、個々で「認知行動療法」に取り組んでもらう形にしました。

 ワークシートでは、まずストレスを感じた具体的な場面を書き出します。例えば「終業間際に上司から仕事を頼まれた」とか……。その場面に対して、どんな感情がどれくらいあったか──イライラ80%、悲しさ20%とか──について書きます。次のステップとして、「その同じ事実に対して、別の捉え方はできないか?」と考えてみるのです。

 例えば「考えてみれば上司も今週は出張続きで、余裕がなかったのかもしれないな」「納期的に今頼むしかなかった案件だったかもしれないな」など、少し客観的に見てみる。そう考え直してみると、イライラがゼロにはならないまでも、80%から30%に下がることもあります。

 最後に「それを踏まえて、自分はどう行動しようか?」と考えて、「次は早めに頼んでもらえるように伝えよう」「今回はやるけど、後でしっかり休もう」など、自分なりの行動につなげていく。そうすると、モヤモヤしていた気持ちが少し整理されて、より良く生活できるようになります。

 認知行動療法のいいところは、より良い生活に向けて自分で考え行動する力がついていくことです。何度もワークシートに書き出していると、だんだん自分の頭の中でそういう考え方ができるようになってくるのです。

 ワークシートで「コツがつかめません」という方には、「具体的な場面を切り取ってみるとやりやすいですよ」といったアドバイスを伝えながら進めました。

 ――働く人に向けて広く行ったのですね。

 ◆認知行動療法はうつ病やパニック障害の方を対象とした心理療法として使われてきました。当時は職場への応用例がほとんどありませんでした。

 今では、不眠の方向けの認知行動療法がアプリになるなど、日常のストレス対処にも使えるようになってきています。

 これからも、病気の人だけではなく、働く人全般に向けて役立つ知識を届けたいと思っています。

小島 玲子 (こじま れいこ)
丸井グループ 取締役上席執行役員 CWO ウェルビーイング推進部長 専属産業医。医師、医学博士。大手メーカー専属産業医を約10年務めた後、2011年より丸井グループ専属産業医。2014年、健康推進部(現ウェルビーイング推進部)の新設に伴って部長となり、同社の健康経営の推進役となる。19年執行役員、21年取締役CWO(Chief Well-being Officer)、23年より現職。日本で初めて、産業医として上場企業の取締役に就任。近著に「夢中になれる組織の科学 働きがいのメカニズムを解き明かす」(日経BP)。

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