働く人の幸せのために 研究室の仲間と、今も学び続ける 北里出身・丸井グループの産業医、小島玲子・取締役CWOに聞く④

ウェルビーイング経営」を掲げる丸井グループには没頭して「フロー状態」となり、イキイキ働く社員が多いことが、数値でも示されています。キラキラした実績を聞き、「私の会社ではなかなかできないのでは」と内心思ってしまう人もいるかもしれません。丸井グループは「特別」なのでしょうか?北里大学大学院出身で、丸井グループの産業医として働く小島玲子・取締役CWO(最高健康責任者/ Chief Well-being Officer)に考え方のヒントと、同じ研究室で学んだ仲間とのその後を聞きました。(4回目/全4回)

【これまでの記事はこちら】

「安心できるから、意見が言える」 「叡智と実践」を体現する北里での学び 北里出身・丸井グループの産業医、小島玲子・取締役CWOに聞く①

「バランスよく捉える」視点を育み 働く人の健康を導く 北里出身・丸井グループの産業医、小島玲子・取締役CWOに聞く②

つらい「コールセンター」が、「やりがいのある職場」に変わった理由は? 北里出身・丸井グループの産業医、小島玲子・取締役CWOに聞く③

 ――丸井グループ社員の「健康」にはどういう風にアプローチしていますか?

 ◆「健康」と聞くと、「メタボやメンタル不調の予防」などのイメージが強いと思いますが、実はもっと広いのですよ。・・・・・・ところで、健康の定義ってご存知ですか?

 ――わかりません・・・・・・。

 ◆WHO(世界保健機関)の定義では「病気がないこと」ではなく、「身体的・精神的・社会的にすべてが満たされている状態」。英語原文では「Well-being」と表記されています。健康診断で異常がないというようなことではなく、「ウェルビーイングな状態」が「健康」なんです。

 だから、疾病予防施策ももちろん行なっていますが、本来の健康、つまりウェルビーイングな状態を創るための施策も行なっています。例えば、より良く働くための食事のとり方などの工夫です。朝食を抜くと血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)が下がって、脳にブドウ糖が届かなくなり、イライラしやすくなったり、集中力が落ちたりしますよね。

 でも、そういう基本的な健康の知識が、働く人たちにあまり知られていませんでした。朝食を抜いてがむしゃらに働き、店舗勤務の社員だと、夜の閉店(21時)の後に家に帰って夕食をドカ食いし、スマートフォンを見て寝不足で翌朝を迎える──。そんな生活をしている社員が多くいました。

 でも「では、どうすればいいか」が意外と知られていない。そこに役立つのが学問です。

 例えば、「血糖値がどのくらいの範囲だと頭がすっきりするか」なども研究されています。そういう知識は、ビジネスパーソンのパフォーマンス向上にも役立ちます。社員には、朝食を抜くとどんな悪影響があるのかや、閉店時間が遅い店舗のスタッフには、夕方に軽く食べるようにして、帰ってから大量に食べないなど、食べ方の工夫を伝えて実践してもらいました。

――丸井グループの先進的な取り組みに対し、「うらやましいけれど、私の会社ではできない」と感じる人もいると思います。

 ◆今のお話を聞いて思い出したのが、丸井グループで2020年から5年間に渡って取り組んだ「ウェルビーイング推進プロジェクト」です。社員約5000人の中から「手挙げ」でメンバーを募って、毎月1回、どうやったらウェルビーイングを実践できるかを話し合う、1年間のプログラムでした。

手挙げで選抜されたウェルビーイング推進プロジェクトの集合写真(提供=小島さん)

 初年度は「しなやかな頭と体で、今よりもっと生き生き」というビジョン案が出たのですが、「『今よりもっと元気になれ』と言われるのは、正直つらい」という声が多くて。そこから対話を重ね、「その人なりに一歩でも工夫できたと思えればそれでいい」というあり方に変わったのです。

 その後、メンバーが「他の社員にも伝えたい」と、全社員向けの共有会を10回ほど開催しました。「みんなが常に『フロー状態』である必要はない」というメッセージが広がり、聞いた人からは「ちょっとホッとした」という感想が届きました。

 ――そういう話を聞くと、私も安心します・・・・・・。丸井グループが「特別」なのではなく、誰でも小さな一歩を踏み出せば、近づける姿なのですね。

 インタビューでは丸井グループにおける具体的な活動についての質問を多くいただいた形ですが、北里大学大学院在学時に学んだ考え方や人のつながりが、有形無形に、今の人と組織の活性化の仕事に役立っていると感じます。

 北里大学は生命科学の分野が強く、病気の研究だけでなく、疫学や公衆衛生(集団全体の健康を維持・増進し、病気を予防するための組織的な取り組み)の研究、つまり病気でない人も含む多くの人々に影響する要素を探ることを大事にしています。北里大学の学祖である北里柴三郎博士は、社会全体の人々の健康を考えていた方だと思います。

 私は北里大学相模原キャンパス(神奈川県相模原市)の図書館で、論文をたくさん読みました。それを今、実務の現場で生かしています。

 北里大学大学院を修了して15年が経ちますが、研究室のメンバーとは今も年に一度集まって情報交換をしています。また研究室のメンバーは、産業精神保健学教授の田中克俊先生を中心に、大学院を修了した後も、様々な研究を継続して行なっています。

 先日も田中先生のAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の研究の一部として、教室のメンバーが集まって皆で活発な議論を行ったところです。

 これからも、大学院での学びや人とのつながりを大切にしながら、働く人の幸せに向けて、微力ながら貢献していきたいと思っています。

小島 玲子 (こじま れいこ)
丸井グループ 取締役上席執行役員 CWO ウェルビーイング推進部長 専属産業医。医師、医学博士。大手メーカー専属産業医を約10年務めた後、2011年より丸井グループ専属産業医。2014年、健康推進部(現ウェルビーイング推進部)の新設に伴って部長となり、同社の健康経営の推進役となる。19年執行役員、21年取締役CWO(Chief Well-being Officer)、23年より現職。日本で初めて、産業医として上場企業の取締役に就任。近著に「夢中になれる組織の科学 働きがいのメカニズムを解き明かす」(日経BP)。

カテゴリ別

    新着記事

    • キャンパスのいま

      2024.12.02

      砂塚敏明学長 国際化への思い  「生命科学の総合大学としてグローバルな問題への貢献を目指す」(上)

    • 社会とつながる

      2025.05.15

      北里大学メディカルセンター わん!チームのシンボル(上)「北里メディカルドッグ交代式」レポート

    SNS

    KITASATO PARK,北里大学公式SNSをフォローして、最新情報をゲット!