研究の森

2025.7.31

健康な腟内にはどんな乳酸菌がいる? 薬学部・伊藤助教が進める研究とは(下)

 よい乳酸菌が常にいる女性の腟内は、酸性に保たれています。酸性の環境では、病原菌は生きられません。そのため、よい乳酸菌を腟内に保有することが、疾患や不妊の予防につながると考えられています。北里大学薬学部・微生物学教室の伊藤雅洋助教は、腟内環境の研究を、企業とともに取り組んでいます。産婦人科クリニックの協力により、健康な女性24人の腟内の細菌構成を調べることができ、「よい腟内環境」の定義が明らかになりつつあります。

【これまでの記事はこちら】

「病気になる前に、できることを」 腟内環境の研究で導く女性の健康 (上)

女性の腟内環境は「変わりやすい」 体型と年齢が影響する? (中)

 ――「良い腟内環境」とは、具体的にどのような環境でしょうか?

 ◆私は、産婦人科クリニックにご協力いただき、日本人女性24人の腟の粘液にどんな菌がいるかを調べました。

 この図の縦軸には、それぞれ個人の腟内に、どんな菌がどのくらいの割合で存在するかを表しています。緑で示しているのが良いと考えられている乳酸桿菌「ラクトバチルス・クリスパータス」です。「L. クリスパータス」を多く腟内に持っている人は、子宮頸がんなどになりにくいことが、明らかになっています。そして、4割弱の人はこの「L. クリスパータス」を多く持っていることが分かります。

 次に多いのが赤くなっている乳酸菌「ラクトバチルス・アイナー」。この「L. アイナー」を腟または子宮内に多く持っている人は着床率(卵子と精子が受精して受精卵を作り、子宮内膜に接着する確率のこと)が低いことが報告されています。

※黄色のシャーレでは「L. クリスパータス」を、赤色のシャーレでは、「L. アイナー」を培養し、生菌数を算出しています。

 腟内は月経などによって環境が変動しやすいです。乳酸桿菌「L. アイナー」は、月経中に他の菌にのっとられて、腟内からいなくなることがしばしば認められます。一方、乳酸桿菌「L. クリスパータス」は、比較的安定しています。

 右側のさまざまな色で示されている人たちの腟内には、乳酸桿菌以外の細菌が多種類いることを示しています。症状として表れていない場合でも、腟内環境はあまりよくないと考えられます。

 ――腟内にそもそも乳酸桿菌がほぼいない人もいるのですね。

 ◆今回の研究では、25%の人の腟内に、乳酸桿菌以外の菌が主な構成細菌として検出されました。また、「腟内にどんな菌がいるか」も大切ですが、「腟内の『生きている菌の数』」も重要であることも分かりました。

 ――女性は、腟内に「L. クリスパータス」を増やした方が良い、と言えますね。

 ◆そうなんです。そのための研究を進めるのとともに、正しい知識を広めたいです。「乳酸桿菌『L. クリスパータス』が健康にいい」という情報は、関心のある方、妊娠を望む方たちの間では知られるようになりましたが、そこから先――「どうすれば『L. クリスパータス』が増えるのか」といった具体的な方法については、まだ分かっていないことが多いです。

 現状では、一つ一つの事象に対する説明は正しくても、それを都合良くつなげてエピソードを作ってSNSで発信しているケースも目立ちます。研究者の私から見ると、結果として「間違った発信」になっているため、心配しています。

 ――乳酸桿菌は、健康に大きな影響を与えていることがわかりましたが、正しい情報を参考にしたいです。

 ◆最近では、健康な女性の膀胱にも乳酸桿菌がいる。そして、膀胱炎を繰り返す人の膀胱にも乳酸桿菌がいない――。こうしたことも明らかになってきています。

 閉経した人は膀胱炎になるケースが多いとされていますが、乳酸桿菌を通じて、そういう方たちにアプローチできるかもしれません。

 ――北里大学に関心のある学生さんにメッセージをお願いします。

  ◆「微生物学教室」には、私を含めて教員5人、大学院生5人、5年生14人、4年生17人、3年生6人が所属しています。薬学部なので薬剤師を目指している学生が大半ですが、私の研究に関心を寄せてくれる学生も多いです。

 北里大学の学祖である北里柴三郎博士は「役に立つこと」を大切にしてきました。研究室の長である金倫基教授も、私も、その視点を大切にし、研究をどのように応用して実社会で役立てていくかを追究しています。

伊藤 雅洋(いとう まさひろ)
北里大学・薬学部・微生物学教室・助教。主な研究は、女性生殖器の常在細菌と宿主との相互作用の解析。ヒトの細菌叢を介した疾病の予防や治療などの臨床応用研究に取り組む。趣味はサッカー観戦、バスケットボールやウィンタースポーツ、旅行と多岐にわたる。

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