研究の森

2025.8.28

「なんで?」が生み出す「人が使える技術」 獣医学部グリーン環境創成科学科の挑戦(下)

 農学部を選んだ理由は「食い意地」? 獣医学部グリーン環境創成科学科の長坂善禎准教授は、農業分野における新技術「リモートセンシング」の研究に取り組んでいます。長坂准教授が研究者を目指した理由や、農業における科学技術の役割について聞きました。

【これまでの記事はこちら】

離れて測る「リモートセンシング」が米不足を救う? 獣医学部グリーン環境創成科学科の挑戦(上)

――「研究者になろう」と思ったきっかけを教えて下さい。

 ◆若いころは「研究者になれば好きなことを研究して生きていける」と思っていました。実際には、好きなことは追求できるけれど、それ以外にやらなくてはいけないことが年齢とともに増えてきますけどね(笑)。

 大学を受験する時には、工学部と農学部で迷いました。最終的には「農業の方がうまいものを食べられそう」と、農学部を選びました。食い意地が張っていたからかもしれません(笑)。そんなふうに、「食べ物に関わることの方がいいかな」という軽い気持ちで専攻を選んだ記憶があります。

――北里大学に着任する前は、どのような研究をされていたのですか?

 ◆2016年から2021年は、盛岡市にある東北農業研究センター(農研機構の研究拠点の一つ)で働いていました。そこでは、主に「人が使える技術」の開発に取り組んでいました。例えば、GPS(全地球測位衛星システム)を使った自動運転の田植え機です。田植機の運転にも技術が必要で、気を抜くと畝が左右に曲がってしまいます。そこで、自動運転技術の導入によって、誰でも真っすぐ田植機を走らせることが可能になりました。運転手もハンドル操作に集中する必要がないため、疲れにくくなり、作業効率もアップしました。

 このシステムは秋田県の八郎潟の富栄養化の低減にもつながりました。それまでは苗を真っすぐに植えるため、田んぼに引いたマーカー線を目印にして田植えをしていました。このマーカー線を引くためには、田植えの際に栄養をたくさん含んだ田んぼの水を地面ぎりぎりまで抜く必要がありました。このことが八郎潟の富栄養化につながっていたのですが、自動運転の導入によりマーカー線を使わなくてもよくなったのです。

 その後、農業食料工学会で知り合いだった先生の後任として、北里大学に着任しました。「研究がやり放題」と聞き、好きな研究を続けたかった私にぴったりだと思いました。

――現在はどのような研究をしていますか。

 ◆リモートセンシングを使って、牛が食べる牧草の効率的な栽培方法を追求しています。

 リモートセンシングとは、「離れて測る技術」のことです。対象物に直接触れることなく、人工衛星やドローンなどを使って測定し、形状や性質を把握することができます。近年は衛星の小型化、低コスト化が進み、個人でも解像度の高い画像を入手することができるようになりました。

 牧草は、一度種を土にまくと、何年にもわたり刈り取り、天日乾燥、収穫を繰り返します。ただ、牧草地に雑草が紛れ込むと牧草の収量が減ってしまいます。現在は雑草が増えてくると牧草地全面に農薬を散布していますが、雑草がない部分にも農薬を散布するため、多くの農薬が必要です。

 雑草の生えている場所だけに農薬を散布することができれば、農薬の使用量を大幅に削減することができるようになります。また、農薬を散布するかわりに雑草のみを刈り取ることにより、農薬を使用しない有機農業を実現することができます。

 こうした課題を解決するため、雑草が生えている位置を特定し、その雑草が地面を覆っている面積を計算する研究を行っています。雑草の位置と覆っている面積がわかれば、その雑草に向かって必要な量の農薬を散布する「スポット散布」が可能になります。また有機農業の場合は、刈り取り機を動かす範囲が明らかになります。

 対象となる雑草は「エゾノギシギシ」です。地面に落ちた種子が長期間土の中で生き残って時間をかけて芽を出すため、根絶するのが難しいからです。このエゾノギシギシの生えている位置と大きさを、距離画像カメラ(赤外線を対象物に照射し、反射して返ってくるまでの時間から距離を算出するカメラ)とGPS(全球測位衛星システム )を利用して計測する研究を行っています。位置と大きさがわかれば、自走式の散布ロボットによって、スポット散布や、刈り取り機を装着したロボットによる雑草の刈り取りが簡単にできます。

 北里大学獣医学部のある十和田キャンパス(青森県十和田市)には、広大な牧草地を持つ牧場があり、そこでこうした研究を続けてきました。(注:新設されたグリーン環境創成科学科は、神奈川県相模原市にある)。

――研究者としてのやりがいは、どんなところにありますか?

 ◆「なんでこうなるのだろう?」と考え続けるのがおもしろいです。

 リモートセンシングの研究では、衛星から測ったデータと地上で測ったデータが合わなかったときに仮説を立てて検証します。衛生と地上のデータが合えば「おお、ピッタリ!」と感激するし、合わなければ「なんで?」と疑問に思う。探究のくり返しで、そのプロセスが楽しいです。

 また、暑い中、外に出なくてもある程度のことがわかるようになるのも魅力です。最近夏は日本全国どこでもとても暑いので、外に出るのは最小限にしたいです。卒業生には、農業分野に限らず、さまざまな分野で活躍してほしいです。

 グリーン環境創生科学科では、社会人特別選抜試験や学校推薦型選抜試験(公募制)、総合型選抜試験(女子特別枠あり)などを行っています。リモートセンシングを通じて、効率的にデータを得る方法を学ぶこともできます。科学的根拠(エビデンス)を持って物事を判断する力を養うため、学生には「なぜそうなるのか」を考える姿勢を大切にしてほしいですね。「持続可能な社会」に貢献する研究に、一緒に取り組みませんか?

――農業や環境問題解決において、「リモートセンシング」と、グリーン環境創生科学科が果たす役割は大きいですね。ありがとうございました。

長坂 善禎(ながさか よしさだ)
北里大学・獣医学部准教授。主な研究は環境情報の取得とその解析。「離れて測れば何でもリモセン(リモートセンシング)」を合言葉に、非破壊、非接触で対象とする動植物やもの、事象を計測している。ICT(情報通信技術)、IoTの利用を得意としている。趣味はクラシック音楽鑑賞、サッカー観戦、使われなくなった過渡期の技術について調べることなど。

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