
細菌による感染症を治療するための抗菌薬が効かない「薬剤耐性菌」が増えています。このままでは近い将来、多くの人が感染症によって命を落としてしまう危険性があります。北里大学ではこうした事態を防ぐための研究が進められています。医療衛生学部(環境衛生学教室、神奈川県相模原市)の清和成教授に話を聞きました。

――薬剤耐性菌とは何でしょうか?
◆細菌に感染した時、病院で抗生物質などの抗菌薬が処方されますよね。抗菌薬は細菌を殺すための薬のことですが、この抗菌薬が効かない細菌が増えているのです。これを薬剤耐性菌と呼びます。医療現場では今、このことが大きな問題になっています。2014年にイギリスの薬剤耐性に関するレビュー委員会が「2050年には、薬剤耐性菌で亡くなる人が毎年1000万人に上り、がんによる死亡者数を上回る」との見通しを発表し、WHO(世界保健機関)を中心として世界的な問題として対応に追われています。
――なぜ、薬剤耐性菌が生まれるのですか。
◆抗菌薬の不適切な使用が一因だとされています。病院で処方された抗菌薬を飲み切らなかったり、逆に飲み過ぎたりすると、遺伝子の突然変異などによって耐性を持つ細菌が生まれます。
――薬剤耐性菌の研究を始めたきっかけは何ですか。
◆私はもともと生物の力を使って水をきれいにする研究を続けてきました。安全な水は、人々の健康につながります。北里大学に着任した2011年からは、医療を通じて社会に根ざし、病気にかからないための「予防医学」を大切にしてきた「北里大学らしい研究」をしたいと思うようになりました。その中で着目したのが、薬剤耐性菌の問題でした。私は細菌のDNAを調べることで、薬剤耐性菌の広がり方を調べています。
――実際はどのように広がっているのですか?
◆病院から出る排水や下水など、水を介して広がっていくとされています。私の研究室では水環境中での薬剤耐性菌の発生源や広がり方を分析し、新しい殺菌方法を含めた対策を考えています。
――私たちが使う水道水の中に薬剤耐性菌が潜んでいる可能性はありますか?
◆その可能性は否定できません。薬剤耐性菌は水道水源からも見つかっています。鳥などの野生動物などを介して広がっているとされています。水道水は塩素消毒されていますが、3日ほど置いておくと、塩素が抜けて細菌が増殖できるようになります。ですから、放置した水道水を飲むのはお勧めしません。


――海外の事例も研究しているのはなぜですか。
◆国によって、薬剤耐性菌の特徴が異なると言われています。その国で使われる抗菌薬の種類や生活様式の違いが影響するからです。そのため薬剤耐性菌の国際比較は重要な研究課題です。
日本では、抗菌薬(抗生剤)は病院でもらう処方箋がないと、薬局で購入できません。一方、多くの途上国では、街角の売店(コンビニエンスストアのような店)やスーパーマーケットでも簡単に手に入れることができるため、抗菌薬を必要以上に飲んでしまう人が多いです。抗菌薬の乱用は薬剤耐性菌の増加につながります。
私たちの研究フィールドの1つであるネパールでも、制度上は処方箋がないと抗菌薬が購入できないのですが、現実には守られていません。規制や制度が、その国の社会や文化に受け入れられていくためにはどうすればよいか――。ネパールの政府もこうした状況を認識し、対策を議論しています。
――ドイツの研究所との共同研究も始まりました。
◆北里大学の学祖は細菌学者の北里柴三郎博士です。博士の時代からつながりが深い「ローベルト・コッホ研究所」(ドイツ)との共同研究は2024年からはじまりました。
共同研究では、ドイツと日本における薬剤耐性菌の違いを調べ、新しい耐性菌対策につなげることを目指しています。

――水中に潜む「薬剤耐性菌」をなくすためには、技術だけでなくその国の文化・価値観も踏まえた対策が必要なのですね。
次回は、清教授の研究に、詳しく迫ります。(つづく)
<関連リンク>
北里大学 医療衛生学部 保健衛生学科 環境衛生学教室 (清研究室)
清 和成(せい かずなり)
北里大学・医療衛生学部/大学院医療系研究科・教授。主な研究は、水環境中における健康関連微生物、特に薬剤耐性菌や病原体とその媒介生物のモニタリングと対策技術開発。約 140 本の研究論文を発表している。趣味は、クラシック音楽鑑賞、バレーボール、野球観戦、料理と多岐にわたる。研究の森
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