
地球のお医者さんになろう――。北里大学獣医学部に今年4月、グリーン環境創生科学科(神奈川県相模原市)が開設されました。環境問題の解決に向け、環境科学や自然科学、データサイエンス、農学をボーダレスに学ぶことができます。グリーン環境創生科学科ではさまざまな研究が進められていますが、今回は、「リモートセンシング」を紹介します。リモートセンシングとは「離れて測る技術」のことで、農業分野などに応用されています。リモートセンシング研究室の長坂善禎准教授に話を聞きました。(全2回)
――リモートセンシングとはどんな技術でしょうか?
◆対象物に直接触れることなく、人工衛星やドローンなどを使って測定し、形状や性質を把握する技術のことです。近年は衛星の小型化、低コスト化が進み、個人でも解像度の高い画像を入手することができるようになりました。こうした技術革新を背景に、私が所属する研究室では、リモートセンシングを環境の状態を継続的に観測・分析する「環境モニタリング」や農業に応用する方法を研究しています。

――最近はコメ不足が問題になっていますが、コメ作りや、コメの収量調査などにも活用できるのでしょうか?
◆はい。地方独立行政法人青森県産業技術センター開発した生産管理システム「青天ナビ」が好例です。ブランド米「青天の霹靂」は青森県産で初めて「特A」(米の食味ランキングにおける最高評価)をとることができました。そのおいしいお米を毎年安定して生産するために衛星データを利用しています。衛星画像から水田1枚ごとの適切な収穫時期やお米に含まれるタンパク質の含有量を予測しています。農家の人はスマートフォンなどでそれらの情報を受け取って収穫時期を判断したり、肥料の量を調節したりしています。

農林水産省は先日、コメのできばえの目安となる「作況指数」の公表を廃止する方針を示しましたね。農水省は2024年産の「作況指数」を「平年並み(101)」と公表しました。またお米の生産量は足りていると説明してきました。しかし生産や流通の現場からは、「作況指数から予想されるよりも実際の収穫量は少ないのでは」との指摘が出ていました。
国の収穫量調査は、全国で無作為に抽出した約8000箇所の水田で実測調査を行っており、収量の多い田んぼから少ない田んぼまでの平均値です。平均値を下回る⽣産者は特に、「実態と異なる」と感じることもあると思います。
作況指数はおおまかにいうと、その地域の収穫量調査の過去30年分のデータをもとに予想した10 a(10 m×10 m)あたりの収穫量(平年収量といいます)と、今年のその地域の実際の10 aあたりの収穫量を比べた値です。
10 aあたりの収量が増えていても、コメ全体の作付面積(栽培している土地の面積)が減っていれば、全体の流通量は減ります。作況指数は「10 aあたりの収量」を見ており、作付面積が減っていても指数は良くなります。実際には米が足りなくても、10 aあたりの収穫量は「平年並み」となることもありえます。
国は今後、こうした状況を踏まえ、コメの収穫量調査については人工衛星データ(リモートセンシング)なども活用し、精度を高めていくことを計画しています。
人手が足りない時代ですから、リモートセンシングのように、「手を抜く技術」の活用も必要です。暑い中、人力で頑張って手作業で収穫量調査するにも限界があります。だからこそ、新しい科学技術に光を当て、現場の負担を減らしていくことも大切だと考えています。

――研究室ではほかにどんな研究をしているのですか?
◆私自身は牧草の生育状況と収量の関係、牧草地に侵入している雑草の分布とその省力的な退治方法を調べています。同じ研究室の村田裕樹講師は磯焼けと呼ばれる藻場の減少や、魚の生育環境の変化などを、ドローンを使って調査しています。藻がなくなると、魚の産卵場所や隠れ家が失われてしまうので、生態系に大きな影響が出ます。
宮城県石巻市の沿岸部では、東日本大震災の津波によってカキの養殖施設が流されてしまい、海の環境がリセットされたような状態になりました。村田講師は空中や水中からの観測によって震災前後でどう環境が変わったかを調査することで、原因や対策を探っています。
――リモートセンシングはいろいろな分野に応用できるのですね。
◆他にもさまざまな研究が進んでいます。たとえば、鳴き声を自動で検出する装置を作ることで、鳥の鳴き声を聞き分ける研究もできます。「白鳥が十和田湖(青森県)にいつ帰ってきたか」も分かるようになります。音で調べることもリモートセンシングの一種と私は考えています。
また、調査対象は自然にとどまりません。港に並ぶ輸出用の車両の数などがどう変化しているかも、リモートセンシングで調べることができます。車の台数まではわからなくても、塊としての変化を捉えられるからです。
研究室では「離れて測れば何でもリモセン(リモートセンシング)」を合言葉に研究しています。

――まるで魔法のような技術ですね。
◆グリーン環境創生科学科は「地球のお医者さんになろう」をコンセプトに掲げています。
止まらない温暖化、失われる生物多様性――。地球の健康状態は、深刻な状況です。水や空気が汚れ続けると、食物も育たなくなります。地球が健康でなければ、人間も健康に生きられません。人間が病気になったら医師に頼るように、地球にも「医師」が必要です。

新学科では、農業分野に限らず、環境をデータなどに基づいて診断し、より良い状態に導くための技術や知識を学びます。環境科学、自然科学、データサイエンスなど、さまざまな分野をボーダレスに学び、環境問題を解決に導く力を身につける「地球のお医者さん」を育てます。
リモートセンシングは、農地や森林、海岸などの環境を「離れた場所から」調べることができます。医師が人間ドッグでさまざまな検査装置を利用して人間の体の状態を体の外から調べることに似ていますよね。
次回は、長坂准教授が研究者を志した経緯を深掘りします。
長坂 善禎(ながさか よしさだ)
北里大学・獣医学部准教授。主な研究は環境情報の取得とその解析。「離れて測れば何でもリモセン(リモートセンシング)」を合言葉に、非破壊、非接触で対象とする動植物やもの、事象を計測している。ICT、IoTの利用を得意としている。趣味はクラシック音楽鑑賞、サッカー観戦、使われなくなった過渡期の技術について調べることなど。研究の森
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