研究の森

2025.4.24

薬が効かない「薬剤耐性菌」はどこで生まれる? 人の健康につながる「水の消毒方法」とは?(中) 

 

 薬が効かない薬剤耐性菌がどこで、どのように発生して、社会の中で広がっていくのか――。「人々の健康につながる安全な水」を追究してきた北里大学医療衛生学部(環境衛生学教室)・清和成教授は、謎の多い薬剤耐性菌の発生源を突き止める研究を続けています。どこから出た排水に、どんな種類の耐性菌がいるかを細かく分析することが、新たな耐性菌対策にもつながります。

【これまでの記事はこちら】

人類の脅威「薬剤耐性菌」に立ち向かう 医療衛生学部・清教授の「北里らしい研究」が導く未来(上)

 ――研究は具体的にどのように行うのでしょうか?

 ◆水中における薬剤耐性菌の発生源を特定し、それぞれの発生源にあった消毒技術を研究しています。

 現状は「病院から出た排水などを通じて、薬剤耐性菌が広がるのではないか」と考えられていますが、研究の世界において、はっきりとしたデータでは示されていませんでした。

 現在は北里大学病院などから出た排水内の菌を分析し、人を介した「薬剤耐性菌」の広がりを中心に、研究を進めています。これまでの私たちの研究で「病院で問題視されている『薬が効かない薬剤耐性菌』とは違う種類の『薬剤耐性菌』が、病院から出た排水の中にいる」ということが分かりました。

 一方、薬剤耐性菌は病院の排水や都市の下水だけでなく、人間の影響を受けにくい川の上流からも見つかっています。そうすると、「この薬剤耐性菌はどこからやってきたのだろう」と、謎が深まりますが、野生の生き物、渡り鳥のフンを介して薬剤耐性菌が広まっている可能性があると考えられています。

 ――「薬剤耐性菌」が増えたり、広がったりする仕組みはわかっているのでしょうか?

 ◆ある「薬剤耐性菌」が、どんな種類の耐性の性質(遺伝子)を持っているか――。ひとつひとつの遺伝子を地道に調べることで、耐性菌の増え方、広がり方が推測できます。

 遺伝子は、顕微鏡では見えないほど小さいです。そのため、解析には新型コロナウイルス禍において有名になったPCR法の機械を使います。遺伝子は「ATGC」という4種の塩基の組み合わせで情報が決まるため、どういう順番で組み合わさっているかが読み取れます。

 塩基の並びが分かると、どういう種類の耐性遺伝子なのかが分かります。また、「どういうふうに耐性の性質が別の遺伝子から取り込まれたか」も解析できます。ある耐性菌が、「細菌を覆っている膜を変化させて、薬が入って来にくくする」「別の菌に遺伝子を飛ばす」という遺伝子情報を持っていたとします。さらに、周辺の別の耐性菌の遺伝子が、同様の耐性の性質を持っていることが分かれば、「薬剤耐性の性質が移ったのだろう」と推測できるのです。こうした「遺伝子のやりとり」の痕跡を丹念に見ていくと、「薬剤耐性菌」の広がり方が分かるようになるのです。

 ――地道な作業が必要なのですね。水を介して薬剤耐性菌が広まらないためにはどうしたらよいのでしょう。

 ◆私は、どういう水の消毒方法が、人々の健康につながるかを研究しています。私たちが自宅や病院などで使って汚れた水は、家などの下にある排水管を通って下水道管に流れ、その先の下水処理場に運ばれていきます。そのため、下水処理場に集まる下水には、たくさんの薬剤耐性菌がいます。下水処理場で薬剤耐性菌をしっかり消毒してから川などに放流できれば、薬剤耐性菌がうまれても「世の中には広まっていかない」状況になります。

 現状、日本では、下水処理場に集まった水を塩素で消毒してから、(海や川などに)放流しています。一方で、塩素は「反応性の高い」物質です。水中の有機物と塩素が反応してできる「トリハロメタン」は、一部で発がん性なども指摘されています。また、河川などから浄水場に集めた水も、塩素消毒を経て水道水となります。

 ――日本の水道水から「トリハロメタン」を除去するとうたう浄水器が売られているのは、そういう理由なのですね。

 ◆はい。ただ、水道水の消毒に塩素を使わない国もあります。塩素消毒によって得られるメリットと、発がん性物質が発生するデメリットと、どちらに重きをおくかは、国の文化にもよります。実際、塩素ではなく、紫外線や、オゾン、過酢酸などを使って水を消毒している国もあります。

 実は、塩素によって、水中のどんな菌が消毒されているかは、はっきりと分かっていませんでした。研究者が水を分析するときも、菌全体の数がどれだけ減るか――。菌の「種類」ではなく、「数」に注目してきたのです。例えば、悪さをする菌が100匹のうち1匹いたとして、どのくらい菌を減らせば人に影響をほとんど与えなくなるか――。確率論で感染症対策を考えるのが一般的でした。近年では技術が発達したこともあり、菌の種類も分かるようになりました。消毒の方法を変えると、生き残る菌の種類も変わります。私たちは、こうした研究を通じて、薬剤耐性菌が生き残らない水の消毒方法を調べています。

 紫外線やオゾンで水を消毒すると、発がん性物質(トリハロメタン)が発生しませんが、(水の中に3日間残る塩素とは異なり)水の中に残らないため、消毒の効果がすぐに薄れ、菌が増えやすい側面もあります。一方で、塩素消毒をしても、生き残る菌もいるわけです。

 

 ――どういう水の消毒方法がより人々の健康につながり、「薬剤耐性菌」が広まらないか、という「問い」と向き合い続けているのですね。

 

 次回は▽清教授の研究室と、学生の進路▽清教授が「なぜ研究者になったのか」?――に迫ります。(つづく)

<関連リンク>

北里大学 医療衛生学部 保健衛生学科 環境衛生学教室 (清研究室)

清 和成(せい かずなり)
北里大学・医療衛生学部/大学院医療系研究科・教授。主な研究は、水環境中における健康関連微生物、特に薬剤耐性菌や病原体とその媒介生物のモニタリングと対策技術開発。約 140 本の研究論文を発表している。趣味は、クラシック音楽鑑賞、バレーボール、野球観戦、料理と多岐にわたる。

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