研究の森

2025.5.8

どんな技術と仕組みで、人びとの健康を守るのか――。医学部や未来工学部との連携で目指す「薬剤耐性」問題の解決(下)

 研究者になったきっかけは「風の谷のナウシカ」?――。北里大学医療衛生学部(環境衛生学教室)の清和成教授は、薬が効かない「薬剤耐性菌」をなくす未来を導くための研究を続けています。そんな清教授は、どんな高校時代を過ごし、なぜ「環境工学」を専門とする研究者の道に進んだのでしょうか? 清教授の研究室に所属する学生は卒業後、どのような進路に進むのでしょうか? 詳しく迫ります。

【これまでの記事はこちら】

人類の脅威「薬剤耐性菌」に立ち向かう 医療衛生学部・清教授の「北里らしい研究」が導く未来(上)

薬が効かない「薬剤耐性菌」はどこで生まれる? 人の健康につながる「水の消毒方法」とは?(中)

 ――先生の研究室では、学生さんと一緒になって、薬剤耐性菌の課題解決に向けた研究に取り組んでいるのですか?

◆はい。研究室には、学部の3、4年生と大学院生が所属しています。私たちの研究は、実験が中心なので、毎日のように研究室に来ていると思います。研究室のあるA1号館は2020年に完成したばかりで新しく、広くて快適です。

 学生の進路は多様です。下水道事業団などでの施工管理や環境コンサルタント、水に関するビジネスなどに携わる人――。大学院生は、水関係の職種に就く人が多いです。公務員になる人もいます。

 ――先生ご自身は、どのような思いで環境工学の研究者になられたのでしょうか?

 ◆高校時代に湾岸戦争(1990~91年)が起きました。石油が流出し、海が汚れる光景を報道で目にしました。また、高校の授業で先生が(環境問題を題材にした)映画「風の谷のナウシカ」を見せてくれたことも印象に残っています。こうした経験を経て、「環境問題をどうにかしたい」と思うようになりました。

 化学の先生に相談したら「どういうアプローチで、『環境』に携わりたいのか、まずは考えてみなさい。文学部で学び、物を書いて人びとを啓蒙する仕事もある。工学部で学んで、技術を使って解決する方法もある」と言われたのです。すごい先生ですよね。こう言われて、かなり悩みました。

 結局、環境問題を解決する技術に関わりたいと思い立ち、新しい学問だった「環境工学」を学ぶことにしました。当時はインターネットもなく、高校の進路指導室や書店に置いてある限られた大学情報をもとに大学の学部・学科名で調べていきました。環境工学を学べる大学は少なかったのですが、その中から大阪大学を選び、進学したのです。

 ――研究する上で、北里大学の強みを感じることはありますか?

 ◆北里大学は、学部を超えたつながりが深く、他学部の先生との距離も近いです。特に、薬剤耐性菌の研究を続ける上で、データ解析の専門家があつまる「未来工学部」(2023年開設)の存在も心強いです。また、北里大学は医学部も、病院もあります。病院内で起きている最新の課題も、現場に即したデータですぐに知ることができます。

 高大連携も進んでいます。順天中学校・高等学校(東京都北区)は、2026年度から北里大学の系列校となります。校名も、「北里大学附属順天中学校・高等学校」に変更予定です。ここでは「日本と世界の水問題」などをテーマに、中高生に向けて授業を行っています。

 ――北里大学の受験を考える方に、メッセージをお願いします。

 ◆高校では「文系」「理系」という表現がよく出てきますよね。ただ、大学の学問は、その境界が取っ払われたものなのではないか、と思います。特に私の専門である「環境工学」においては、あらゆる分野の知識が求められます。

  「技術を使って課題を解決する」ことを目指す学問ではあるのですが、「環境」は、そもそも人が住んでいるから成り立つものです。「そこで暮らす人たちにとって受け入れられる技術なのか」という視点が、とても大切です。例えば、発展途上国で暮らす人たちの伝統や価値観でも受け入れてもらえるのか――。すばらしい新技術が生まれたとして、お金がかかりすぎたり、過剰にエネルギーが必要になったりすれば、現地で使うことはできません。その場に応じた最適な技術を見極め、言葉を使って広く説明していくコミュニケーション力も大切です。

ネパールにて

 高校の時に(国語や数学、英語、理科、社会など)「科目」として学んでいることを、ぐちゃぐちゃに混ぜて、いかにそこから「引き出せる」か――。今後は、そういう力が必要な気がします。学びが、すぐに役に立つかどうかは分かりませんし、役に立たないことも、もしかしたらあるかもしれないけれど、あらゆることをバランスよく、かつどん欲に学んでもらいたいです。世界を股にかけて保健衛生や環境の分野で活躍したいと考えている皆さん、お待ちしています!(おわり)

<関連リンク>

北里大学 医療衛生学部 保健衛生学科 環境衛生学教室 (清研究室)

清 和成(せい かずなり)
北里大学・医療衛生学部/大学院医療系研究科・教授。主な研究は、水環境中における健康関連微生物、特に薬剤耐性菌や病原体とその媒介生物のモニタリングと対策技術開発。約 140 本の研究論文を発表している。趣味は、クラシック音楽鑑賞、バレーボール、野球観戦、料理と多岐にわたる。

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